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「確かに今日すごい天気いいけどさ、ただ外を見てたって感じでもなかったよね」 「うん。物思いにふけってるってゆーか」 「ふけってない。絶対にふけってない」 「うーん、でもさぁ」 向かい側の友達が、にやりと笑う。 補足しておくと、さっきカンペを出してくれた隣の席の子だ。 「私ちょっと見えちゃったんだけどさ。………朝田さん、結構絵が上手いんだね」 「っっっ!?」 驚いた拍子に、ご飯が気管に入った。 ゲホゲホと咳き込む詩乃をよそに、二人がさらに突っ込んでいく。 「え、何それ何それ?」 「朝田さんがノートに落書きしてたの。男の子の横顔だった」 「…………おやおや……」 「待って。それ以上いけない」 「どんなだった?」 「結構かっこよかったよ、マフラー巻いてて。髪が長かったかな」 「ガン見されてた!?」 「しかもちょっと笑ってたし」 「絵の男の子が?」 「いや、朝d 「嘘よ!!」 まずい。 話がどんどん自分にとって都合の悪い方向へとスライドしつつある。 何とかして話題を逸らさなければ、正直自分が不慣れにも程がある質問をされる事必至だ。 詩乃は頑張って頭を回転させ、そこそこ食い付きの良さそうな話題を見つけ出そうとする。 「あ、あー。そういえば昨日ケンカしてるカップルを見たなあ。どんな理由でケンカしてたか、知りたくないかなあ」 「見知らぬ他人の話より」 「今は友達の話だね」 息ぴったり。 もはや詩乃に逃げ場は存在しないと言っても過言ではなかった。 ずい、と二つの顔面が急接近してきて、詩乃は思わず背中を反らす。 「で、どんなのどんなの?見せて見せて」 「いや」 「ふふふ。しかし今朝田さんのノートは私の手にあるのです。ほらこれ」 「いやーっ!?」 いつの間に!! 「ほほう……コレは少なくともこの学年の男子ではありませんなあ」 「他校の男子って可能性も……」 くりん、と友達の一人が自分を見た。 「ねえ。この人ってもしかして、朝田さんの―――な人?」 「なワケないでしょ!」 その手からノートを奪い返しつつ、詩乃はその言葉を思いきり否定する。 「誰がそんな人をイジる事しか頭に無いような奴を。怒りは感じても―――だけは絶対にない!」 「おお……」 「実在する人なんだ……」 渦巻く衝動を卵焼きの分解作業にぶつけつつ、詩乃は怒りを溜めるべく彼のセリフを思い出していく。 思い出して。 思い出して。 思い出して――――
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