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「………………………」 ゆっくりと机に突っ伏した。 違う。そこは違う。 そのセリフだけは、思い出さなくていい………!! 「………ん、あれ。どしたの?」 「何か耳が赤 詩乃の右手が閃く。 正確無比に動いた二本の棒が、今まさにいらん事を言おうとしたクラスメートの弁当箱………大事そうに残してあったハンバーグに突き刺さった。 「あ、あーっ!?せっかく残しといた大好物をっ!?」 「もぐもぐごくん!おいしかった!!」 「ひどいよ朝田さん!!この悪魔!!デビル!!だったら私もそのエビフライもらっちゃうから!!」 「あ、じゃあ私そのスパゲッティ」 ドッタンバッタンとご飯時にはおよそふさわしくない効果音が教室に響く。 引っ込みがつかなくなった詩乃とハンバーグの敵を討たんとするクラスメートの乱闘は、この後しばらく続いた。 この不毛な争いで唯一利益を得たのは、その争いの横からそ知らぬ顔で二人のおかずをくすねた、漁夫の利系女子の友達Bだけであった。 <3> 「お、お腹すいた………」 学校が終わった帰り道、げんなりした顔と足取りで詩乃は歩いていた。その背筋も若干傾き気味だ。 不本意な運動でエネルギーを使ってしまったし、お弁当は結局横からほとんどさらわれた。 「ごちそうさま。けぷっ」というあの幸せそうな表情はヘッドショットものだったし、午後の授業でお腹が鳴ってしまった時は死にたくなった。 ちなみにその友達Bにはちゃんと二人でくすぐりの刑による制裁を加えておいた。 当然の報いである。 「何か買い食いしたいけど………家で何か作るしかないかなぁ」 はぁ、とため息をつく詩乃。 もっとも彼女が『買い食い禁止』なんていうアホらしすぎる校則を破れば済む話なのだが、その辺律儀に守っているあたり彼女の人となりが表れている。 そして地味にのしかかってくる空腹を堪えつつ、ようやく彼女は我が家へとたどり着いた。 真っ先にキッチンへと向かい、とっておいた余り物を卵などでアレンジして手早くかっ込む。 ああ、残り物ミックスがこんなに美味しく感じるだなんて。 「さーて、と」 ほどよくお腹を満足させた詩乃は、さっそく準備を開始する。 皿洗いなど家のケアをして、カバンに一日分の着替えと明日の学校で使う教材をつめる。 「これはかさ張るから別枠、と」 もう一つのカバンには、アミュスフィア。 今日一日、朝田詩乃はこの家を空ける。 「友達の家に泊まるなんて、初めて」
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