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「もー、びっくりしたなあシノのん。どうしたの?」
「いや、まあその……思うところが………うん……」
後半からごにょごにょと言葉をしわくちゃにして誤魔化しつつ、まだダルさの残る身体でもそもそと寝間着を着る詩乃。
そして、同じく服を着た明日菜と並んで歯を磨かせてもらった。
「アスナってさ」
「え?」
「漂白剤の精霊だったりする?」
「え、な、なにそれ!?」
だって歯まで真っ白なんだもん。
ちょっとシノのんそれどういう意味ー、と微妙に背中におんぶしてくる形でしなだれかかってくる明日菜を半ば引きずりつつ、詩乃は洗面台のドアを開けて廊下に出る。
すると、リビングで空になったコーヒーカップを前にパソコンをタイピングしている明日菜の母と目が合った。
「あ……、ごめんなさい。お風呂、先にいただいちゃいました」
「構わないわ」
素っ気ない返事だが、幸い不快には思っていないらしい。
心中ホッとする詩乃に、今度は明日菜の母から言葉を投げかけてきた。
「朝田さん、だったかしら」
「は、はい」
「これからも、明日菜をよろしく頼むわね」
その言葉にややきょとんとした詩乃だが、すぐに首を縦に振った。
それを見た明日菜の母は口角を少しだけ上げると、再び目の前の液晶画面に意識を移した。
「いこ、シノのん」
「うん」
明日菜の呼びかけに答え、再び彼女の部屋へと歩き出す。「もー、お母さんてば……」という小さな呟きが詩乃の耳に届いた。
明日菜の部屋の時計を見ると、時刻は七時五十分。いいぐあいの時間だ。
明日菜と詩乃は各々アミュスフィアを取り出し、電源を入れる。
「……………………、」
「シノのんALOに来るの久し振りだね、……あれ。どうしたの?」
「ああ……」
しばらく前からGGOにログインしていると、時々ふと脳裏によぎる事がある。
……いっそ、打ち明けてしまおうか?
自分もそうだが、明日菜もVRMMOの世界にはゲーム以上の特別なモノがあると信じているのだ。
だから、躊躇いはある。
だけど。
「アスナ。私、GGOやALOにいる時、時々考えちゃう事があるんだ」
「考えちゃう事」
「うん」
だけど………誰かに、この気持ちを聞いてほしかった。
「私達は………開発者っていう神様の手のひらの上で走り回ってるだけなんだって」
「……………、」
「建物とか、森とか川とか……何気なくそこにあるように見えても、実際には、……誰かが配置したオブジェクトや、地形なんだって。
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