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たまに、そういう事考えちゃうと………胸の奥の方で、何か……醒めちゃったりして……」
しっかり口を動かしているつもりなのに、言葉がつっかえてしまう。
明日菜は、黙って聞いてくれている。
「私も、VR世界が………VR世界がただの作り物だとか、その中で起こる事が全部虚構だなんて、思いたくないし………それに、思わない。だけどね」
詩乃の顔に、寂しそうな笑みが浮かぶ。
「なのに………そんな事、考えちゃうんだよね……」
それが、自分の秘めたる違和感だった。
次に続くであろう明日菜の言葉を聞くのが、少し恐い。
彼女は自分のこの感情に、怒りを抱くかもしれないのだから。
しかし―――そんな詩乃の小さな怯えとは裏腹に、明日菜は優しい声で言葉を紡ぎ始めた。
「シノのん、それは、この現実世界も同じことじゃないかな。今はもう、私たちに与えられた環境なんて、家や街も、学生っていう身分から社会構造まて、全部誰かがデザインしたものなんだよね……。多分、強くなる、って、その中で進みたい方向に進んでいける、ってことじゃないかな」
少し間を空け、明日菜は笑いを含んだ声で続けた。
「でも、一度くらい見てみたいよね、誰かがデザインしたわけじゃないVR世界を。もしそういうのが実現したら、それはある意味で、この現実世界以上の《リアルワールド》ってことになるのかもね……」
なーんて、と茶目っ気な明日菜の言葉に、詩乃も少し笑みを誘われた。
正直に言えば、この違和感に対する答えを今発見できた、というわけではない。
だけど、胸の奥のつっかえは雲散霧消してしまった。
溜め込んでいたものが、こうも簡単に。
「そうだね。見てみたいね、そんな世界」
「造るの大変そうだけどね」
ふふ、と互いに小さく笑い合い、頭にアミュスフィアを被る。
ベッドで明日菜の隣に寝かせてもらい、一度だけ深く呼吸をした。
やっぱり……持つべきものは、友達だ。
「「リンク・スタート」」
二人の少女の声が部屋に響き、そして世界が切り替わった。
<5>
現実世界とは時間の進行が異なるALOの世界だが、今は偶然にも現実世界と同じ夜だった。
大きな三日月が浮かぶ雲の上、水色の猫妖精(ケットシー)が夜空を飛んでいた。
「気持ちいい………」
夜風を全身に浴びつつ、シノンは空中で呟く。
彼女はアスナに「少し遅れる」と伝言を頼み、しばしの間飛行を楽しんでいた。
しかし。
(何だか、景色が違って見えるな)
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