赤い紫陽花

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「綺麗よ、凛花」  心からの感嘆。  純白のウエディングドレスを身に纏った女性。  彼女は自分に向けられた感嘆に、花嫁らしく柔らかな声で答える。 「ありがとう、お母さん」 「大丈夫?立ったままで」 「平気よ」 「でも凛花、式の前に疲れてしまわないかしら?ずっと立ちっぱなしでいなきゃいけないのに……」 「大丈夫。私にはこれがあるもの」  コツンと何かを叩いた、乾いた音がした。  私の嫌いな音が。 「それにしても、こんな日を迎えられるだなんて、私、本当に……」 「もう、泣かないでよ。式の前に目が腫れちゃうでしょ」 「そうね、泣くのはもう少しだけ後にしないと。ほら、素子も、そんな所に座りこんでないで、お姉ちゃんの側においで」  うずくまっていた私は、重たい頭をいかにも面倒くさそうに持ち上げた。 「お姉ちゃん、綺麗でしょ」  涙ぐんだままの目が、同意を求めているのが分かった。  マーメイドラインのドレス。  真珠のような白のグラデーション。  胸元を飾る控え目なダイヤモンド。  口許にひいた紅。  期待に胸を膨らませるような瞳。  確かに、綺麗だ。  今まで見た事ないくらい。  素直にそう思った。  でも……。  誰のために、そんな真っ白に着飾ったっていうの?  私には彼女が白塗りの道化にしか見えない。  見世物にされていることすら気付かない、哀れなピエロ。  顔まで白く塗ったくって、何がしたいっていうの?  皆が同情の目でしかもうあんたを見ないこと、まだ気付いてないの?
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