8人が本棚に入れています
本棚に追加
「腹もふくれた事だ
ノア、お前の事を教えてくれないか」
夕食も終わり、アレンとタリスとノアは机に向かい合って座っていた
タリスは真剣な眼差しでノアを見つめ、語りかける
そこには優しさというよりも、探りを入れるような、事務的な感情があった
「あ、えっと」
どうしようか
ノアは迷う
自分が何者か、どうしてあの場所で倒れていたのか、二人に説明する事自体は容易だ
しかし、それを話す勇気がノアにはない
自らの生い立ちを晒す事に、強い恐れを感じていた
不意に、固く握った手に暖かいものが重なる
横を見ればアレンは優しく微笑み、ノアの傷だらけの手を包んでいる
「え?」
「大丈夫だよ、僕も一緒にいるからさ」
戸惑っていれば、アレンの落ち着いた声
その言葉に不思議と安心感を覚えたノアは、静かに自分のことを話し始めた
「私はここより二つ隣の村で母と暮らしてました
母は私のことが嫌いで、毎日暴力を振るってきました
ご飯だって、毎日は貰えなかった
三日に一度の食事が私にとって生き延びる為の命綱でした
それでも、私にとって母はたった一人の家族
家族がいる場所以外に行こうとは思いませんでした
でも、今年は私達の村は凶作でした
村人たちは少しずつ貯めていた食糧を全員で分けあいましたが、それでも食料は足りない
食糧の配給が始まってからは、私の食事の回数は減りました
一週間に一回、無いときもありました
流石にそれでは死んでしまうと思ったので、母に頼みました
食事を、少しだけ分けて下さいって
母は私を殴りました
お前みたいなのがいるせいでこっちは村の人たちから疎まれて、食糧だってほとんど貰えやしない
それなのにお前は何様のつもり
そんなに腹が減るならどっか好きなところへ行って草でも食ってろ
そう言われました
草はとても苦くて食べられなかったので畑の少ない作物を盗んで食べました
草よりは何倍もマシでした
でも、ある日村人に見つかってしまった
村人たちからはリンチされました
漸く解放されて家に帰れば今度は母に殴られた
恥さらし、って
母は私を森に捨てました
去り際に、こんな化け物を産むんじゃなかったと言われました
森の中に入れば獣に食べられてしまいそうで必死で森から抜け出しました
さ迷い歩いている内に行き倒れたということです」
最初のコメントを投稿しよう!