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次は新入生代表の挨拶である。司会の教頭が新入生代表の名を読み上げた。
「新入生代表、早伊原樹里」
はい、と一本通るような澄んだ声が体育館内に響く。気持ちの良い高い声だ。
へえ、早伊原、か。あれ、早伊原って……もしかして、もしかするのだろうか。
樹里という名前は、男子か女子か区別がつきにくいが、声を聞く限り、女子だった。予想通りに女子生徒がすくっと立ち上がり、直角めいた進路を取り、檀に上がる。
目を見張る容姿をしていた。愛嬌のある顔立ちをしており、新入生代表という堅苦しい肩書を相殺し、会場の雰囲気をあたためた。
挨拶が始まる。彼女の声は、本当に心地よく鼓膜を揺らす。はきはきと淀みなく喋り、ショートヘアも相まって、快活な印象を与えた。
「――以上を新入生代表の挨拶とさせていただきます。早伊原樹里」
ぺこりと正面に頭を下げ、来賓の方を向き、頭を下げる。顔を上げた瞬間、僕と目が合った。彼女は若干首を傾げて微笑む。僕は反応できなかった。未だにその容姿に、疑問に近い何かを持っていたからだ。ここまで完璧な容姿があるのだろうか、と、まるで人工物じみたそれの粗をさがすように眺めていたのだった。
「春一くん。これ」
僕が彼女に釘付になっていると、会長が僕に花束を差し出してきた。豪奢なフィルムで包まれた花束だった。脇の長机の上に置いてあるのを、会長が持ってきてくれたらしかった。
「……あ、ありがとうございます」
我に返る。花束は、予想以上に重かった。
「あ、会長」
「何?」
僕は気になっていたことを聞こうと思ったが、教頭先生の「花束の贈呈」という言葉が聞こえてきたので、「やっぱり後でいいです」と言い、ライトの下へ出た。
ライトに照らされると、やっぱり緊張する。そもそも僕は、こういった人前に出ることに慣れていない。しかし、花束を渡すだけである。普段、あまり生徒会に貢献できない分、任された仕事くらいきっちりこなしたい。
彼女の前に立つと、彼女は僕の目をじっと見つめて、にっこり笑った。
――。
瞬間、心臓が高鳴り、顔が熱くなるのを感じた。それを、花束を見ることで気分を逸らした。
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