二章「四列離れた席からカンニングする方法」

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 例え、彼女が本気で僕を殴っても、僕が彼女の花を全て枯らしても、僕等がキスしようとも、変えられない。僕等は普段からずけずけと本質付近を突っつきあっているからだ。  しかし、僕も彼女も、本質は何も知らない。何をしたら彼女が本気で怒るのか、喜ぶのか、僕は知らないし、逆もまたしかりだ。それを話す時、僕等の関係は収束する。その日が近いのか、遠いのか、まだ分からないけど。  できればその日は、来ないで欲しいと思う。この、邪魔なほど近くて、見えないほど遠い距離を維持したい。……しかし無理な話だろう。僕が頻繁にミステリに巻き込まれるのを、「体質」と言ってごまかせるのも、限界がある。彼女はいつかその真実に、僕の根幹に触れようとする。その時は、全身全霊をかけて、早伊原を騙そう。  それまでは何も考えず、僕は自分の青春を追いかければいい。  携帯を開くと、森さんから再びメールが来ていた。返事をしながら、チーズバーガーの包みを剥がした。  冷めたチーズバーガーを一口かじり、チーズバーガーってこんなにおいしかったっけ、と思った。
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