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木々の緑は濃くなり、強い日差しを避けるように木陰で蝉が鳴き喚く季節。
子どもらには外でのびのびと遊んでほしいところ。しかし、この部屋の主の桃子(とうこ)は、自室に置かれたパソコンの前で目を輝かせていた。
カタカタとキーボードのテンキーを叩けば、モニター画面の中で二足歩行の犬(?)が、家具の無い簡素な部屋の中をチョロチョロと走り回る。
「かわいい!やっぱり黒!でも茶色もいい!」
今まさに桃子にとって一番の夏休みイベントが始まろうとしていた。
それはオンラインゲーム。
そしてそのキャラクターメイキングは時間の掛かる作業の一つ。連れ添うキャラクターは分身であり相棒、或いは友人、時には恋人となるのだから。
種族、性別、配色、身長等を行きつ戻りつ桃子ははしゃぐ。それを背後から少年がたしなめた。
「ワン族の黒で絶対やるって言ってただろう。早く名前入れろよ。」
時間がかかるもう一つの作業は、名前の登録である。1サーバーに同名は3人までとなっているが、用意した名前が登録出来なければ、ひたすら登録可能な名前を考えなければならない。
ゲーム時間の判定外とお許しを得たせいか、なかなかメイキングルームを出ない妹に少年は焦る。
『イグドラシルサガ』。
長編ロールプレイングゲームをパソコンで遊ぶ事が出来るオンラインゲーム。
桃子がこのゲームを始めたきっかけは、少年―兄・尚瑛(しょうえい)の受験勉強本格化計画により、パソコンが桃子の部屋へ移されてきたからだ。
勉強に関わる調べ物は電子辞書か書籍で済ませ、どうしてもという時だけパソコンを使えというお達しが尚瑛に下った。
それでも、すぐパソコンが桃子の部屋に置かれるとは決まらなかった。第二のゲームの虫を危惧した母が渋ったのだ。なんやかんやと他に置場所が無いことと、桃子は既に第二のゲームの虫であるという結論の下にがパソコン訪れた。
最初は尚瑛が使っているデータで遊ばせようと母からの提案もあったが、トラブルがあっては困ると尚英は桃子の為、ひいては自分の為に新しいアカウントを作成した。
それからさらに、母と兄の会議を経てゲームについていくつかの約束事が決められたのだ。
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