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「いいか、ゲームは一日二時間だ。今日は何をどこまでやるか前もって決めておけよ。変な奴も多いけど自分が正しいとも思うな。買い物はぺル以外ではするなよ、Mマークはリアルマネーだからな。PマークだぞP!課金なんかしたらトッコどころか俺までおかんに怒られる。最悪ゲーム禁止になる…。」
桃子の後で兄の語尾は震えていたが桃子はよくわかっていない。
尚瑛は言葉を続ける。
「アンコウが時々様子見に来るって言ってたから、何かあったらあいつに聞け。トークはオープンじゃなくて…」
「コントーク(confidential talk=内緒話)!にーにぃうるさい!キャラできたし早くどっか行け!」
兄が講釈をたれている間にキャラ設定は確定し、名前登録は判定待ちとなっていた。早く遊びたくてウズウズしている桃子は、椅子から立ち上がり兄を部屋から追いたてる。
尚瑛は他にも注意事項の口上を並べていたが、鍵の掛からない仕切り程度のドアでも、閉じられればそれ以上口煩い言葉はなかった。
尚瑛は不安を隠せない。ゲームの面白い部分や楽しかったことばかり話していなかったか、と。
オンラインゲームとテレビゲームは違う。
桃子が小学生ということもあって、他のプレイヤーとの会話は駄目という約束をしたものの話しかけられればどうなるのだろう。
誤解やいさかいも経験のうちだと言うけれど、せっかくの夏休みだけのゲーム。
(楽しい事だけだといいんだけど…。)
ため息をつく。
(アンコウに言ってから勉強しよ。)
隣人にお守りを託し、尚瑛はとりあえずの安堵を得ることにした。そんな兄をよそに戸を閉めた桃子はフンッと小さな鼻息を威嚇のように鳴らす。
ピロロロン♪
パソコンからの音に振り返り画面を見ると、キャラクターがこちらに向かって手を振っている。
キャラクター登録が出来たと見え、兄の不安とは裏腹に桃子は期待でいっぱいになった。
今日はほぼチュートリアル(操作解説)で時間がつぶれる。そのチュートリアルにも物語があるため、見て損は無いと兄は言っていた。
名前は一回で登録出来た。なかなか幸先が良いのではないかと思える。
パタパタと椅子に戻り、目覚まし時計を二時間後に鳴るようセットして、画面に向かえば期待に笑みがこぼれる。
「今日の目標はレベル10!」
そして桃子は、[外へ出ますか?]の問い掛けに[はい]をクリックした。
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