神の大樹の物語🌱

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二足歩行の黒い柴犬。 その見た目を分かりやすく説明するならこんなところだろうか。 フサフサの毛で覆われていても、服はちゃんと着ている。 麻地のチュニックと絞りのズボン。腰に皮のコルセットを巻いた初期装備に銅の剣を下げれば、初々しい冒険者姿は歴戦の勇士よりも華やかに見える。 付け加えれば、獣特有の尻尾。和犬を模したワン族のくるんと巻いた尻尾はどんな武防具やアクセサリーよりも強力な装備だ。 と、一部ユーザー間で囁かれている。 初期装備に履いていた靴も、桃子は裸足のビジュアルが良いと判断し、防御-1も惜しまず脱いだ。 種族はテリアン(ワン族)。 性別は女。 職業は戦士。 名前は桃千代(モモチヨ)。 踏み出した一歩に合わせて軽やかな音楽が流れ出した。 オープニングムービーは街を歩く桃千代からアングルを引き、活気溢れる露店の並びを抜けて更に人通りの多い大きな通りへ。 人混みを縫うような視点は、街を横切る小鳥のものであるという演出で、大通りから広場へ、さらに噴水を飛び越え巨大な凱旋門へ飛び込む。 門の中には槍や剣、盾を持った騎士たちの石像が並び、門を抜けると小鳥は囀りながら空へと上昇する。 眼下に美しい水を湛える掘が広がり、堀に架かる長い橋、さらにその先にそびえる城の上空で、 『-Yggdrasill Saga-獅子城の継承者』 高らかなファンファーレとともにタイトルと副題が浮かび光りの粒へと霧散した。 城を囲むように街並みは整えられ、凱旋門広場には大きな街路樹が枝葉を揺らす。その枝先に小鳥は止まる。気分良く囀ずると羽ばたいて飛び去った。 映像はもう小鳥を追いかけない。 小鳥のいた枝先の向こうを歩いてくる新米冒険者、桃千代へとアングルは絞られた。 お上りさん、はたまた物見遊山か、辺りを物珍しく見渡す桃千代の姿はまさにそれである。 さくさくと芝生を歩いて行くと、水晶のような材質の輝く大きなモニュメントの前で桃千代は立ち止まった。 下から上へ、ゆっくり映し出されたモニュメントは人工的でありながら、どこか超自然的。 何故か桃子には世界を支える柱のように見えた。
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