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ムービーはここで一旦終わる。
操作視点へと変わると周りはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だけでなく桃千代と同じく、冒険者としてログインしているプレイヤーの姿が一人二人と表示されはじめた。
画面だけでなく、会話や情報表示をするログウィンドウも一行また一行と徐々に賑やかになっていく。
アイテムを使用している者、移動魔法を唱え始めた者、ダンジョンやクエストの攻略パーティーを呼び掛ける者、何やらボディーランゲージのようなやり取りをしている者、それぞれ表示される行動のジャンルでログウィンドウはカラフルになっていた。
「あれ?ウソ!?まってまって!!」
ゆるやかに見えた文字が一気に表示され、あっという間にイベント発生の黄色の文字が流れていく。
桃子は慌てて桃千代をプレイヤー集う星晶石のモニュメントから移動させる。
とにかく他のプレイヤー達の会話や行動の表示を拾わないよう距離を取ろうと端へ端へ駆けた。
進行方向に桃千代と同じ背丈の植え込みが生い茂る。
勢いで突っ込むと通り抜けが出来るようで、ガサガサと葉や枝を揺らし引っ掻ける音をたてた。
茂みの先は城のお堀だった。柵もなく、波紋煌めく水面が広がる。
周りにプレイヤーはおらず、エリア区間全体へ呼び掛けをするラウドヴォイス(Loudvoice=大声)こそ避けられないものの、ログウィンドウの文字の流れは大人しくなっている。
しかし、
「魚いるかな?」
水の中を覗き込むのは子どもの習性であろうか。ここへ来た目的を忘れ、思わず桃子は桃千代を堀へと進ませた。
水の色の濃く底は見えない。何かないものかと、画面に寄ったり離れてみたり、画像の角度や視点切り替えを駆使していると、水よりも濃い魚の影が大小よぎる。
「おー魚いるー!」
桃子が桃千代を通して水中の様子に探りを入れていると、突然背中をピシャリと叩かれて振り向いた。
「画面に寄り過ぎ、姿勢が悪い。目ぇ悪くするよ?てゆかさっきから一人言多い!端から見てると気味悪いよ。」
麦茶が注がれた涼しげなガラスのコップを盆に乗せ、様子を見に来た母親が立っていた。
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