神の大樹の物語🌱

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母親の登場により現実へ一気に引き戻され、幻滅と指摘された言動の恥ずかしさから桃子は余計な反発をする。 「いーじゃん別に!おっかーだって車のゲームしてる時体傾くし!てっ」 桃子の減らず口に母親、三千(みち)の手刀が頭に落ちる。 「痛くないけど痛いー!てか時間制限しといておっかーも邪魔しないでよぉ。てっ」 足をばたつかせながら抗議する桃子へ母親の手刀がふたたび落ちる。 「だまらっしゃい。とっこもしょうもゲームに意地汚いんだから。麦茶置いてくからね。トイレ行く時間までケチってお漏らししないでよ。」 「しないって!」 三千は小さな盆ごと麦茶を置き、去り際に、 「変な姿勢で麦茶飲んで溢してパソコン壊しても買い替えとかしないから。」 置かれた麦茶にすかさず飛び付いた桃子は母親の釘刺しに意地悪だと嘆く。それでも一口飲んだ麦茶は元の盆の上に置き、心持ちパソコンから遠ざけた。 麦茶は熱中症を気にしての差し入れとは露知らず、桃子はゲーム再開と画面に目を戻した。 「そうだ、クエスト!」 一息つけば当初の目的を思い出す。 画面に向き直ると、桃千代の側に真っ黒な鎧を着た冒険者が立っていた。 捻れた角が生えた兜は口元しか見えず、顔つきが分からない。黒い鎧は厳ついながらもスマートなデザインで如何にも格好良く、背負っている真っ黒な大剣はバトルに使える装飾品のようだった。 桃子がまじまじと鎧を観察しているとログウィンドウにコントークの緑色の表示が上がる。 【暗雲:わんちゃん(っ´ω`)つお手】 【桃千代:しないもんっ!】 桃子はコメントを返して、桃千代が黒い鎧の冒険者―暗雲(アンウン)に向かってパンチをする仕草を取る。 ややあって暗雲はガクッと膝をついた。 【暗雲:し、新品の鎧に足形がぁぁ(*´Д`)アァン】 と書き込みが入る。 種族はヒュノム(アジン族)。 性別は男。 職業は黒騎士。 名前は暗雲(アンウン)。 お隣さんの安光(やすみつ)こと、アンコウだった。 桃子は席を立ち、ベッドの方の窓の網戸を開けて、一段高い隣の窓に向かって大声で話しかける。 「アンコウ!かっこいー!」 窓から安光がひょいと頭を出して、 「ゲーム中はコメントで言ってください!」 恥ずかしいとばかりに返事をする。時間が無い、言った方が早いの応酬も近所筒抜けに、桃子は席に戻った。 途端に桃千代が動く。 小さな冒険者は黒い騎士をお供に冒険へと向かって走って行った。
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