第1章

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 文化祭一日目の今日はどこもかしこも人で溢れていた。格別力を入れているわけではない定型の公立高校で見られる文化祭なのだが、よほど地元民から関心を集めているのか、みな暇を持て余しているのかのどちらかだろう。  去年から使い回しの入場門からとめどなく人が入ってくる。「第40回 うない(うないら)祭」と書かれたベニヤ板の看板がそこここに掲げられている。そのなかには、「〝一〟年越しの〝F〟orror」なんて書かれた見たくもないやつまで紛れ込んでいる。まったくうまくもなんともないそのテロップだが、わが一年F組のお化け屋敷を知らしめるものだ。せめて〝Fear〟のほうが様になった気がするがな。どちらにしても、来客はかんばしくないだろう。活況を呈しているのは、やはり模擬店だ。俺ら一年にはその権利はないため、詮方なくどこの高校でも鉄板と言うかマンネリなお化け屋敷に落ち着いたのだ。  午前中に腐乱犬として大活躍をした俺は、午後は好きに見て回ることにしていた。いまは入場門を仰ぎながら、外テントで売られている焼鳥を調達したところだ。 「おお、うまそうじゃのう! あたしにも一本おくんなましっ!!」  言うが早いか、俺のエコカップに刺さったねぎまを抜き取りかぶりつく駿河。爺さんみたいな口調だが、彼女はれっきとしたJKだ。森ガールなショートショートのぱっつんバングにふわくしゅなパーマが頬を流れ落ちている。ミルクブラウンの髪が柔らかく陽光の下で煌いていた。  通りすがりの先輩たちがちらちらとこちらを見ている。それもそのはずで、駿河はこの高校でも評判の女子だったのだ。それこそ、「可愛い娘ランキング」なんかが公然と催されたなら、一位か二位を争うことは間違いない。そのうえ成績優秀、スポーツ万能、性格は誰よりも明るいので、まあ、人気がでないほうがおかしいというやつだ。こんなとき、とくに男どもから駿河のみならず、俺にまで視線が投げかけられる。勿論、見惚れているとか憧れているとかなどであろうはずもなく、ただ単に、駿河と一緒にいることに対する羨望の眼差しだ。 「……ん? なにを見ておるのじゃ?」  仔犬のようにつぶらでいて、好奇心を具現化したかのように大きい瞳が、俺を真っ直ぐに見つめてくる。  ああ、知らず凝視してしまっていたようだ。 「ああ、別に……」  なんとなく濁していると、 「そうか!」
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