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特大の目を得心がいったように輝かせ、
「おぬしもいますぐ食べたくなったのじゃな?」
言うなり、あ~ん、みたいな表情を見せながら、食べかけのねぎまを差し出してくる。
「い、いや、別にいいよ」
そんなことをしたら命がいくつあっても足らん、というやつだ。
駿河はなんだか残念そうに肩をすくめて、再び自分の口に串を運ぶ。それから、ちろり、と俺に目をやって、
「てか、いま思ったんじゃけんど……」
お前は本当に高校生だよな?
「キンヤンって、なんか〝別に〟って多くない?」
はぁ? ちなみに、キンヤンとは俺のことだ。
「別にそんなこと……」
ぷぷぅーっ、とねぎを吹き飛ばすような勢いで笑い始める駿河。俺はじきに失言に気づき、羞恥が顔を赤に染める。駿河は渋面の俺を、こいつ引っかかりやがった、みたいな時を得顔で思う存分堪能すると、
「さ、早く体育館に向かわないと! デヴィたちが待っておる!」
一気に残りの肉を頬張り、揚々と歩き出す。俺は焼鳥アラカルトなカップを手にしっかりと握り締め、意気軒昂な白い背中を追った。
『演劇部主催・「ハムレット」』
かようなプラカードを掲げた客引きが混雑する人の群れのなかで精一杯の笑顔を見せていた。虚飾に彩られた文字の下に、〝第二部・午後13時半~〟との記載を確認できた。どうやら定時に始まるらしい。
開けっ放しの体育館正面入り口、鉄扉の横に見慣れた顔が二つ並んでいた。すかさず駿河が声をかける。
「デヴィ! リモぉ~~~っ!」
喧騒に溢れていても、これほどの大声ならさすがに届いたようだ。二人同時にこちらに顔を向ける。
「遅いわよ、いくら整理券があるからってね……」
ややご機嫌斜めな長身の美女はいでべなんこ(いでべなんこめ)。翠色の制服が抜群に似合っている。胸は小振りだが、脚が異常に長く、引き締まったウエストはまさにモデルになるために生まれてきたような印象だ。ちょくちょく読者モデルとして有名雑誌に出たことがあるらしい。「サインくださいっ」なんて同級生から声をかけられているのも何度か見たことがある。俺もいまのうちにもらっておいたほうがいいかもしれないな。
「ま、いいじゃないか、ほら、瞬が僕たちのために買ってきてくれたようだし」
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