第1章

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 いつものように軽々しい調子で執り成すのは森山都だ。黒縁眼鏡の奥から中性的な可愛らしい瞳が覗いている。学年で一位の成績を取っているような真面目さは微塵も感じない。こいつは中学の頃から女にモテていて、そのバレタインでもらう一日のチョコの数は、俺の一生分の数を足しても及べないだろう。比較として陳腐にすぎたかもしれないが。 「さあ、早く入りましょう。真奈、出して」  鷹揚に手を突き出す出辺。 「わかっておる、わかっておる……」  などと呟きつつ、駿河が脇腹の辺りをまさぐり始める。しかしその手はなににも引っかかることなく、すりすりとシャツの上を滑るばかりだ。 「ねえ、まさかあなた……」  一瞬にして満ちる不穏な空気は正しかったようだ。  わかりやすく駿河は頬に汗を垂らしながら、 「忘れてきちょりましたわいっ!」  てへっ、と可愛く舌を出して見せる。たいていの男ならそれでもう許してしまえるのだろうが、 「大馬鹿っ!!」  当然、出辺に通用するわけもなく、 「ひぃぃっ、怒らないでけろぉ~~っ!!」  大げさに両手を擦り合わせる。  どうしたものか、と俺が逡巡するより早く、先のプラカード持ちのスタッフと思しき女性となにやら話している森を発見。まもなく―― 「なんとかしてくれるそうだよ」  クールショートなツンツンヘアに見合った爽やかな笑顔で言ってくる。 「ほぅ、わしの予想どおりじゃ……」 「なに偉そうに言ってんのよ……!」 「いだだだだだだ……ッ!」  思いきり出辺が駿河の耳を引っ張り上げる。  こうして俺たち四人は、ようやく薄明かりで満たされた館内へと足を踏み入れた。 「一番後ろの端っこになっちゃったね」  苦笑気味に言う森。すかさず首肯する出辺が、 「誰かさんのせいでね」  嫌みったらしく言ったのだが、 「お、そこの可愛い娘ちゃん、ちょっと寄ってきんさいっ!」  それこそ、一番後ろの隅に座っていた駿河は、でかい声で売り子の女子を呼びつける。 「なんだまだ喰う気か?」  俺は焼鳥を見せてそう訊くが、 「当たり前のことを訊くねい! トルティーヤとワッフルを狙っていたんじゃい……」  ぐっふっふ、と笑いながら両手に嗜好のブツを譲り受ける。 「太るぞ」  厳しい口調で言ってやるが、 「ちっちっち、充分なカロリーは消費してあるから問題ないのじゃ!」
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