第1章 #2

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「〝外患誘致罪〟と同レベルにね!!」  そりゃつまり問答無用で…… 「ぐぉっ!?」  気づけば俺の頭は、浴槽の底にぴったり張りついていた。効能のある湯が、それこそ体の芯まで流れ込んでいったのだ。  一命を取りとめた俺は、温泉に併設された蕎麦屋で腹ごしらえをすることとした。本来は予定地でカレーを自炊するはずだったのだが、これも計画変更の一環だ。  鰯だしの卵そばはなかなかに俺好みだった。溺死しかけた胃に優しく沁み渡ってくれる。隣の卓では女子どもがなにやら興奮気味で話している。まだ怒っていやがるのかと耳を傾けてみると、どうやらべつの話題で憤っているらしかった。 「本当に見たの?」 「え、ええ、見ました」  出辺の不審げな問いに、裏木が戸惑いながらも頷いている。 「こんな山奥にぃ? ありえんじゃろ、それは……」  駿河がきっぱりとかぶりを振るが、 「あ、うちも見たんじゃん、……あんたもね?」 「そうだし……わたしも見たし……」  なにを「見た」と言うのだ。俺は蕎麦をすすりながらもさらに耳を澄ます。と、ふと「仮面少女」のフレーズが聞こえてきた。まさか―― 「なんだ、なにか『盗まれた』のか?」  そう訊くと、神妙な顔の裏木がひそめた声で、 「そうだけど……」  認めるが、なにか煮え切らない様子だ。すると駿河がはっきりと、 「ブラをやられたんじゃ」 「なに?」  うなだれている裏木。どうやら嘘ではないらしい。しかしなぜだ。仮面少女はそんなに裏木のブラにご執心なのか? 「アタシだけとは誰も言ってないけど」  険のある口調で裏木が睨めつけてくる。 「ほかに誰がやられたんだ?」  次々に手が挙がる。 「みんなブラを?」  いくら俺でもこう単刀直入には訊けない。勿論森だ。 「そうよ……山都じゃないわよね?」 「まさか! だって僕はしかと南子たちの裸を見ていたじゃないか!」 「声がでかい!!」  いっそうでかい声で南子にどつかれる山都。ざまあみろ、と俺は悦に入ってふんぞり返る森を見つめる。そして質問を再開した。 「……ってことは一人残らずやられたってことだな?」  みな無言で頷いた。 「ほかの客は?」 「あたしたちだけだったみたいじゃな……」 「ん?」  と、ここで俺は違和感に気づいた。つと口にする。 「亀津も盗まれたのか?」  同時に、 「どういう意味じゃん!? 喧嘩売ってんじゃん!?」
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