第1章 #2

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「そうかな? 僕はこれぞ青春!――って感じがしてるんだけど」  ほう。青春とはずいぶんと辛く厳しいものだな。俺の膝はもう必要以上に冷たい水のおかげで鉛をつけているようだ。 「青春ならもっと楽に体験したいものだ。なにも俺たちは『山岳部』というわけじゃないんだからな。もっと〝ハイキング〟程度に済ませても罰はあたらないんじゃないか?」 「まったくわかってないね」  なにがだ。 「〝青春〟がだよ。たの(たの春)しいという漢字はらく(らくい)とも読むけど、『楽しい』と『楽』はイコールじゃない。辛いことも楽しいと思うことが肝要なのさ。人生を謳歌するうえではね」 「俺はそんなにマゾヒスティックには物事を考えられそうにないな」  それは間違いない。なにしろ俺にとっては「楽」=「楽しい」にほかならないからだ。「楽しい」ことっていうのは、ある種、「逃避」の側面があるとは思わないか? たとえば試験前なんかは当然、勉強しなくちゃいけない。だが、そんなときこそTVを観たくなったり漫画を読みたくなったりする。それはあくまでしなくちゃいけないことからの「逃避」に違いなく、しかし、というかそれだからこそ、「楽」で「楽しい」のだ。  それはなにもべつに試験前に限ったことではないのかもしれない。誰でもそうだろうが、高校生なら少しでも「いい大学」にいきたいと思うものだ。それこそ、日東駒専よりもMARCH、MARCHよりも早慶、早慶よりも東大、といった具合に。それならやらなければいけないことは常にあるということになる。それすなわち勉強だ。だから学校から帰って、ゲームや読書をすることが「楽しい」かもしれないが、同時にその時間を勉強にあてることこそ、しなければいけないことと言える。  勉強以外の楽しいことをやることは、その時間分、やらなければいけないことから逃げているのと同義であり、だからこそ「楽」だと感じ、「楽しい」と感じる。東大にいくようなやつは、そういう「逃避」の時間を極力削ってやらなければいけないことをやっているやつだ。無論、一部の天才を除いては……だが。
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