第1章 #4

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「おい、バカっ、なにごとにもふざけていいときと悪いときがだな……!」  俺が「平均男子」になるまえのみぎりに教師から言われたトラウマをそのまま垂れ流していると、 「南子ぉ!」 「デヴィ!」  森たちが叫ぶ。まさか出辺はそんな鼻水垂らしたやんちゃな小学生みたいなことをしないと思ったが、 「えいっ!」  不覚にも可愛ささえ感じてしまうかけ声とともに、俺の首に両腕を回してきた。そして耳許で、 「あなたは一生、私の『奴隷』よ。そのために生きなさい」  そんなバカなことがあってたまるか! と、心は反発しているのだが、なみなみならぬ殺気にも似た強制力が、俺の首を縦に振らせた。 「よろしい」  妖艶な呼気が耳をかすめる。と、 「よぉ~~し、わしら『緑高ワンゲル部』、これにて『兵士岳』を……」  息が止まるほど俺を締め上げて駿河が、 「〝完登〟じゃぁ――――ッ!!」  駿河の叫びと、森たちの歓声が寄せてくる霧を吹き飛ばしていく。この幅ぜまの岩の上こそ、正真正銘のピーク(ピークま)といってよかった。  残っていたガスが散っていく。つかの間、俺たちの前にはノイズひとつない完全なる景観が広がった。視界の及ぶ限りの自然、町、そして地平線。さらに視線を上げると…… 「おおお……っ!!」  圧倒的なコバルトブルー。眩しく異様に近く感じる太陽。それに、ほかを引き立てる点景のようにうっすらと棚引く雲。  俺の声に反応したのか森が、 「今度こそ感動したようだね、まあ、この景色を観望してなにも感じないわけが……、ってどこ見てるのかな!?」  俺はまだ空を見上げていた。  横に長く伸びている雲は流れ続けていた。太陽をちらつかせながら、とどまることなく動いている。それでも雲は太陽の側にある。けっして寄りそっているわけではないのに、流れても流れても雲は太陽とともにあった。  ひとはどうだろうか。  ひとがともにあるためには、寄りそわなければならないと思っていた。いや、その考えに変わりはないのだが、なにも寄りそい合わなければならないわけではないのだと、いま俺は気づいていた。
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