第1章 #4

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 なぜなら俺もいま、こいつらとともにあったからだ。こんな唐変木な俺に、こいつらは力いっぱい寄りそってくれている。まあ、力が入りすぎて寄りそっているというよりは掴み締めて苦しめているといった感じだったが、そこはほら、あれだ、ラストだからやさしい目で見てくれるとありがいな。  ともあれ、まあ、俺が言いたいのはこういうことだ。  これまで俺が好きな天候はもちろんくもりだった。なぜかといえば、それは当然、一番平均的な香りがするからだ。晴れでも雨でもなく「くもり」。うむ、実に平均的だろう? だからもし、森に「好きな天気はなにかな?」なんてつねりたくなるにやけ顔で訊かれたら、迷わず「くもり」だ、と答えて「あ、おんなじだね(ハートマーク)」と返されたあげく、すべからくルンルン気分で空の上を歩けたはずなのだ。よし、じゃあ崖の向こうに足を踏みだすか、ってそんな話じゃなかった。よけいな話が長いよな。あともう少しだけつき合ってくれ。  そうだ、いまの俺にはもう宙空を闊歩することはできないのだ。これは俺の好きな天候が変わってしまったのだからしかたがない。いまでも「くもり」は好きだ、捨てがたい。だが断然、いまは「晴れ」が好きになっていた。  平均男子は、平凡生活を望む。  それはいまも、そしてこれからも変わることはない。変えることはできない。それが俺の生き方であり、いわばそれしかない「人生」だからだ。  そのうえで、俺は「晴れ」が一番好きなのだ。とくにこんな、自由に雲が流れ、それでも太陽とともにある「晴れ」の日が。  ここでもうひとつ、俺が絶対に変えたくないものがある。今後いったい俺になにが起ころうと……  雲ひとつない「快晴」を好きになることは、絶対にないということだ。  絶対ということは絶対にないというパラドックスを絶対にないと言い張るぐらい絶対にない。  俺は決然と腹に力を込めて溜まっていた思いを言葉にすると、なぜか活力に満ちた感情が腹の深淵から立ちのぼってきて、それが俺の顔に笑みという形で表れていた。 「お、いい顔しとるのぉ……!」  いち早く駿河に気づかれてしまい、 「山を少しは好きなったんじゃな?」
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