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胸許から上目遣いで言ってくる。太陽が茶色に透けた瞳に映り込み、その稚気を孕んだ怜悧な輝きを見ていると、心の奥まで見とおされているようで、俺は目を逸らして上空に目を投じなければならなかった。雲の動きが速くなっている。ここよりさらに強い風が吹いているのだろう。
森が勢いよく俺の胸をどつき、
「ここまできて嘘はつくなよ。僕たちまでばち(ばちま)があたるからね」
罰だと? なんでこんな苦しい思いをして登ったのに罰が? 罰というのならもうすでに熊の……
出辺が蛇のように手を顎先に滑らせてきて、
「ここはかつてから山岳信仰の聖地だったのよ、そう、神奈備の山として人々から崇められていたのだから」
ふん、だから神でも宿っているってか?
悪いな、俺は霊的な類はいっさい信じていないんだ。
不意に、〝霊気〟を感じさせるひんやりとした指先が喉仏を軽く押し込んできた。
「もちろん、罰は私が責任を持って担当してあげるわ」
……信じていないが、いまはことのほか気分がいい。たまには素直に自分の感情を吐露しても、それこそ罰はあたらないだろう。
俺は雲を透過した太陽の光を浴びながら、言った。
「まあ、ほんの少しだけな」
了
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