弱い者が弱い

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俺は夢の中で結婚したばかりの妻を殴り殺し、生まれた赤ん坊を川に放り投げ、近所に住む小学生を17年間家の中に閉じ込め、3人の子供を産ませた後で目の前で殺してやった 女の顔に落書きのような刺青を入れ、気まぐれに飯を抜き、殺した赤ん坊をシチューにして食わせた 「テレビやドラマでは、人が死ねば悲しい音楽が流れ、そばにいる人が怒りに震えるか悲しみに暮れるか、喜びに笑い出す人もいるかもしれないが、現実では残念な事に君の死でも解るようにレストランの予約よりも価値のない事なんだよ。それ故に、命を慈しむ者は美しい」 「君はこの2時間で3人分の生涯を過ごした。その都度、記憶を消去し何度も生まれ変わっていたんだ。 大抵の人間は1人目の生涯の時に人を殺してしまっても、記憶消去後も潜在意識の中に殺人の感触が残るのか、次の生では人を殺すのを躊躇うモノなんだ」 輪廻を繰り返し、それでも俺は人を殺す事を止められなかったようだ 「残念だったね」 俺の体に全ての感覚は既になく、生きているのか死んでいるのかすら解らない 心のたがも外れ、本当の記憶もシミュレーション検査の時の記憶も一緒くたになって走馬灯のように目の前を流れていく 「もう生まれ変わる事はないから、安心して死んでくれよ」 これで?死ぬのか?嘘だろ! 目覚めのない恐怖に囚われ、何か叫ぼうとしたが既に声は出なかった それが誰も知る事が出来ない俺の最期の記憶 「ゆっくりおやすみ。良い夢を」
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