小さな鍵

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「不思議な事もあるものだ」 「そうかしら?」  自分の掌の中の鍵を見詰めながら呟いた私に、彼女はくすくすと笑って。 「もしかしたら、あのお婆さんが私達を繋ぐ鍵だったんじゃないかしら?なんてね」  ひらひらと指先で青い鍵を弄ぶ彼女の言葉が、ストンと胸に落ちていく。 「そうだな、そうかも知れない」  きっと次もまたフリーマーケットに現れるんだろう、紫のシートを広げて。  たった100円で買った玩具の鍵は。30年以上の時を経て、私と彼女を繋ぐ鍵となった事をあの老婆に伝えて。きちんとお礼を言いたい。 「あぁ、そうだ」  そこで私は助手席に忘れ去られていたテディベアを車に取りに戻り。 「少し子供っぽい気もするが、受け取って貰えるかな?」  彼女に向けて差し出した。 「ありがとう」  そっとテディベアを受け取った彼女は本当に嬉しそうに笑いながら、花束の香りを嗅ぐようにして。 「30年ちょっとの時間、少しずつ二人で埋めて行きましょう?」 「あぁ、本当に待たせてごめん」 「覚えてくれただけで嬉しいのに、この花だもの。許しちゃうわ」  紫の不思議な形をした花だとは思っていたが、何かあるのだろうか。  怪訝な表情に気付かれてしまった様で、彼女は一つ苦笑い。 「紫のヒヤシンスの花言葉はね、初恋のひたむきさ」 (了)
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