小さな鍵

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 今日は月に一度開かれるフリーマーケットの日、有志が持ち寄った売り物は多岐に渡るけれど。  そんな中でも一際目を引くのは、毎度紫のシートを広げる老婆。  俺は向かいの場所にシートを広げながら、自分のお客さんを捌いていたんだが。  ふっ、と。気になりそちらへ目を向ける。すると老婆も偶々こちらを見ていたらしく、視線がかち合った。  そして手招きする老婆。  うちの方はだいぶ落ち着いていたし、持ってきたモノも大体捌けていた。距離的にも目の届く範囲だしと、俺は折り畳みの椅子から立ち上がり老婆の下へ。 「どうかなさいましたか?」 「いえね、貴方の所に行きたがってるみたいだったもので」  何の用かと問い掛けると。老婆は不思議な事を言いながら、シートの上から古びたスーツケースを手に取り。俺へと差し出した。 「あの、何故?」  流石に気味が悪くて受け取る事を躊躇うが、満面の笑みを浮かべる老婆は悪人には見えない。 「持っておいき、近々分かる日が来るよ」  老婆の言葉の妙な説得力に押されてついスーツケースを受け取ってしまう。  視界に入ったシートの上には、紫の花束を持った可愛らしい熊のぬいぐるみが赤と青の鍵を首からぶら下げていて。  他にも宝石箱みたいなオルゴールとか、キラキラした何かのカプセルに、高そうな本。  その時俺は、売れなさそうなものを押し付けられたのかも知れないと思った。
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