小さな鍵

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 フリーマーケットを終えて帰路に着く車内で、ハンドルを握りながら俺はぼんやりと考える。  あのスーツケース、何処かで見覚えがあるな。と。  まぁ、そんなものとは縁の無い生活をしてきた俺だ。偶々見掛けたものが記憶に残っているんだろう。  だが、何故か気になる。  俺は住んでいるマンションに戻り、スーツケースだけをぶら下げてエレベーターに乗り込む。最上階で降りるまで止められる事も無かった。  元々一つのフロアに一室しか無い高級マンションだ、他の住人とかち合う事もまず無い。  やたらと広い家は余らせた部屋に贈り物が積み重なっている、今日みたいにフリーマーケットで売っても中々減らない。  俺はホストをしていて。自分で言うのもあれだが、そこそこ人気がある。  貢ぎ物は止まないし、こんなマンションにも住める。  だがそろそろ潮時だろう、とも感じていた。年齢が年齢だから無茶な飲み方もそうそう出来なくなっているし。何より若い連中の勢いに押され気味だ。  だが、辞めた所で俺には何も宛が無い。  上京してまで入った会社で、上司と揉めて辞めさせられ。それ以来10年以上夜の世界で生きてきた。  今更俺が、真っ当な仕事に就けるんだろうか。転職するにしたって、俺の経歴を思うとかなり難しいだろう。  ソファーに身体を預けながら天井を仰ぎ、目の上に右腕を乗せて深く息を吐く。  俺の人生、どうなっちまうんだろうな。  5年も前は、一生夜の世界で生きてやると息巻いてた気もするが。この世界の寿命は下手なスポーツ選手より短い、俺はかなり持った方だろう。  最近は漠然とした不安ばかりが頭の中を渦巻いて、生きている事にすら疲れつつある。  グッと伸ばした足に何かが触れ、バタンと大きな音を出して倒れた。  起き上がり向けた視線の先には、古びたスーツケース。  あぁ、思い出した。  ほんの少し、会社に勤めた頃に持っていたスーツケースに似てるんだ。  あれは確か、何処にやったっけかな。
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