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「で、ピンクの子虎、お目付け役はいずこに?」
俺はこの舌っ足らずな商人をかねてより虎と評している。
心身共に熟さない愛くるしい子虎、しかし、夢見がちであればこそ貪欲で腹黒い肉食獣の子なのである。
この危なっかしい十九歳には、常にお守役がついているのだが――
「さあ?」
アヤが惚けた顔で首を傾げた。
「さあ、ってお前さん――」
ウィルが何事か言いかけたところで、
――ドゴォッ! ドゴォッ!
外に集まったオーガが一斉に店を殴り出した。
店が衝撃で揺れるたびに石材の粉がパラパラと床に落ちる。
「連結(ジョイント)ッ!」
猛り狂う魔物らの騒音の中に、涼やかな男の声が響き渡った。
入口に陣取ったオーガの足を、光の鎖で繋がった手斧がぐるぐると巻き付く。
「おっと」
ウィルが「にゃっ」とした笑みを浮かべた。
『グ、ガ――!?』
入口を塞ぐたオーガが、光の鎖に足を引かれて大きく体勢を崩した。
「おぉっしッ!」
気合一喝、ウィルが一足跳びにバーの入口に殺到した。
俺は両腕を目の高さに持ち上げて、グッと拳を握りこむ。
「銀の弾丸(シルバーブリット)!」
俺の拳に青い光が灯り、魔力を帯びたコインが親指によって弾き出された。
――タタァン!
青い光の尾を引く二発の弾丸が、オーガを打ち抜いて上体を大きく仰け反らせる。
ゴロツキの額を打ち抜いた時とは込めた魔力の量が違う。
女神のコインを魔力によって融解させ、魔力と金属の中間物質「魔法銀」(ミスリル)の弾丸へと変える僧侶の初歩技術だ。
「しゃァぁぁぁらァぁぁッ!」
咆吼したウィルが、仰け反るオーガに飛び上がりざまのボディフックをねじ込んだ。
『ゴブゥッ!?』
ウィルの腕が肘のあたりまでめり込んで、巨体を誇るオーガの両足が地から浮いた。
中肉中背、猫科の猛獣を思わせるしなやかな体から発揮される、人の並を遥かに超えた豪腕である。
「ボディが甘いぜ」
ウィルが捨て台詞を残し、オーガを超えて店を飛び出した。
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