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「俺たちも出よう」
俺はアヤの肩を叩いた。
「うぅ……戦闘って苦手なのよねえ……」
「何ごとも経験ですよ、お嬢さん」
文句をぶーたれるアヤを左の小脇に抱え込んで、俺もウィルの後を追った。
扉の無くなった入口から表に出た瞬間、
『『グァアアッ!!』』
巨大な拳が左右から降り注いだ。
「おぉ――ととッ!?」
身をかがめて二本の腕をかいくぐり、俺は右手を一匹のオーガに向けた。
――タタンッ!
『ガァァッ!?』
コインが二発命中、打たれたオーガがよろめいて下がる。
しかし、もう一匹のオーガが既に二撃目の豪腕ストレートを振りかぶっていた。
「ちょ――ッ」
右腕に魔力を行き渡らせて防御の姿勢を作ってみるも、一抱えはあろうかという剛拳を受けきる自信はない。
迫り来るオーガの拳に背筋が凍る。
コレやべぇ――
負傷の覚悟を決めた俺の前に、サッと人影が走った。
「おおぉッ――!」
白いワイシャツにダメージジーンズ、腰にぶら下げたレザーの工具バッグ、羽付き帽子を被った華奢な男の背中、獣じみた雄叫び――
「ぁああああッ!」
馬鹿にデカい片刃の斧が、豪快なフルスイングでオーガの胴を薙ぐ。
――ザァンッ!
『……!!』
胴から斬り離されたオーガの上体が言葉もなく宙を舞った。
「うかつだお」
酷く間延びした緊迫感のない声だった。
大斧を軽々と肩に担ぐ細身細面の青年。
羽付き帽子の下は人気俳優か深窓の貴公子か、目を見張るほどの美顔をしていて、眠たげな二重瞼にシルバーグレーの瞳が納まっている。
先ほどオーガの足を絡めとった光の鎖の技を使った張本人だ。
「ビート、助かった」
店の外に集まったオーガそれぞれにコインを撃ち込みながら、背中越しに礼を言う。
「いつもの所に居てくれてこっちこそ助かった。どっかの馬鹿を追うのに困らなかったから」
「馬鹿って誰のことかしら……」
小脇に抱えたアヤが他人ごとのように呟いた。
「おめえだお」
間延びした声に怒気が混じる。
ラフな格好でマサカリ担いだこの美青年、名をビート・スウェインと言い、表情薄く声にも口調にもあまり抑揚がない。鍛冶職人を多く輩出する地方の出で、語尾が時折「お」に訛る。
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