01.プロローグ

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「あっちこっちふらふらしやがって。取って食われるまえに孕ませるんだお」 「恐ろしいセクハラをサァッと口にすゥな! こんの宿六狼!!」  ラ行を所々滑らせながらアヤが喚いた通り、この鍛冶職人の性情は極めて狼に近い。 「リディアの少子化問題に、終止符をうつんだお!」  抑揚のない声で言うこういったセリフも、ジョークではなく案外本気の時があるから恐い。 「はっははは! あっはははは! 剣抜く気にもならねえぜッ!」  ロマン・アンド・スリルにジャンキーなウィルは、馬鹿笑いしながらオーガと素手で渡り合っていた。  幾重にも折り重なる剛拳をひらりひらりと俊敏に避けながら、渾身の突き蹴りで猫が巨体を圧倒する。  俺は咥え煙草の口元を緩め、右手でコイントスをした。  幼き頃から信じてやまぬ、慈悲と怒りの我が女神――  俺は破戒の限りを尽くし、冒険者として今ここにある。  貴女は俺を怒るだろうか?  貴女は俺に微笑むだろうか?  裏か表かイエスかノーか、  答えは出ない―― 「銀の弾丸(シルバーブリット)!」  俺は捕まえたコインの裏表を、確かめることなく撃ち込んだ。  これが俺の所属する商会、「ラブリッサ」の冒険者達である。
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