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「最近妙に王都に魔物が湧くわよねえ。なんだって言うのかしら」
ロビーの白いソファーに腰掛けて、アヤ・クレセントが溜息をつく。
「さァねえ。魔物の当たり年なんじゃねえの?」
アヤの向いのソファーに寝そべった、ウィル・フォードが欠伸がてら言う。
「大聖堂が維持する街の結界も、拡張に拡張を重ねて無理がたたってるらしいからな」
俺はウィルが寝そべるソファーの背もたれに腰掛けて、咥えた煙草の先を動かしながら言った。
因みにロビーは禁煙なので火はつけていない。
鬼人(オーガ)との乱闘から一夜開けた、ラブリッサ商会商館、午後の昼下がりの一幕である。
商館などと言いながら、実際は経営の続かなくなった宿屋の所有権限を譲り受けて勝手に商館を称している次第だ。
魔導ボイラー完備にして蛇口を捻ればお湯が出る。
食料や医薬品の品質を保存する「霊蔵庫」なる魔導機器もロビーに置いてあり、内装設備は極めて良好である。
「たでーまー」
正面玄関の扉を開けて、気怠げな様子のビートが重い足取りでロビーに入ってきた。
「おーぅ、おけーりィ」
ウィルがソファーから手をヒラヒラと振る。
「報酬どうだった?」
アヤが赤い瞳を爛々に輝かせてビートに駆け寄った。
「……」
一方のビートは、羽付き帽子を脱ぎながら無言でロビー隅の重役机に着いた。
クリーミーブラウンの毛先に動きのあるナチュラルヘア、眠たげな二重まぶたに収まる銀の瞳、華奢で細身の出で立ちは鍛冶職人とは思えないほどに美麗である。
お屋敷二階の書斎あたりで、ロッキングチェアにまたがりながら本でも読んでるのがお似合いの貴公子振りだ。
「どうだった、じゃねえお」
しかしこの貴公子は訛りが酷い。
「なによぅ、ご機嫌斜めじゃない。アタシとアンタでオーガ四匹、全員で八匹、計十二匹も倒したのよ? がっぽり貰えて当然じゃない! 大型の魔物って相場上がってんでしょ?」
重役机に頬杖をつくビートに、アヤが喰ってかかるように顔を近づけた。
「がっぽりはいって、がっつり出て行った」
ビートが冷ややかにアヤを見つめ返す。
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