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「出て行った? なんでよ」
アヤが更にビートに顔を近づける。
「報酬はオーガ十二匹で一万二千ディール。それが、誰かさんのせいで二千ディールに減ったんだお」
「たったの二千!? 一万ディールは何処に消えたのよ!」
こと金の話になるとうるさいのは商人の性か、はたまた生来の欲望か。
「誰かさんがオーガを大量に引っ張ってったせいで、被害に遭ったバーの修理費が一万ディール」
「ば――」
アヤが固まった。
因みに一ディール払えば、ポーションもどきの薄甘いジュースが一本買える。
一万ディールもあれば騎士が乗り回す並の新馬が二頭は買えるし、ボロでいいなら小回りの利く軽馬車にだって手が届いただろう。
「あー、派手に壊れてたしなァ」
戦闘中、バーを防衛する意識もなく、好き勝手暴れていたウィルが痛ましそうに眉を顰める。
このままじゃアタシの責任になっちゃう――とでも思ったか、アヤが俺に目を向けて来た。
「もっとちゃんと――」
「守ろうとはしたんだけどな。左がふさがってて手が足りなかったんだ。力及ばず申し訳ない」
俺はポケットから左手を出してお手上げした。
左がふさがっていた理由は、戦闘が苦手と公言してやまないアヤを抱えて、経験を積ませようとしていたからだ。
「あ……う……」
アヤが口をぱくつかせてよろめく。
「それでも二千ディール入ったんだから御の字だけどね。討伐依頼は特に出費もないし」
ビートが抑揚のない調子で言って溜息をついた。
「そういやレヴィ、弾は大丈夫なのか?」
ウィルが俺に碧眼を向ける。
「うん?」
「年柄年中ピーピー言ってるお前さんのこった。弾買う金がねえってんなら、少し回してやってもいいぜ」
ウィルが女神のコインを呼び出して弾いてよこした。
王都警護を任とする騎士を退職したウィルは、トレジャーハンター等という夢ある職業を自称するに値する器用な男で、俺が戦闘の際に主戦力とする「銀の弾丸」(シルバーブリット)を見よう見真似で体得している。
時には拳、時には剣、時にコインと、型に囚われない戦闘スタイルで鉄火場を暴れまわるのが彼のもっぱらの流儀だ。
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