01.プロローグ

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「三本勝負と行こう」 「ご随意に」  コイントスしかけた右手を一度降ろし、俺はウィルに左の手の平を向けた。 「俺が先に言う」 「どーぞ」  ウィルが余裕の表情でカウンターバーに頬杖をつく。  一本目のコイントス、 「微笑んでる」 「怒ってる」  女神の怒り、ウィルの勝ち。  次、二本目、 「微笑んでる」 「お前さんに、怒ってる」  女神が俺に怒りの形相、ウィルの勝ち。  ラスト、三本目、 「ウィル・フォードに怒り給え」 「彼女は俺に微笑みかける」  女神はウィルに微笑んでいた。  ウィル全勝、俺全敗―― 「……」  俺は無言で手の中のコインをかき消した。  ウィルがまた「にゃっ」と笑う。  因みに、コインが消えたのは手品でもなんでもない。  カナンテルス大陸に住まう人間なら、誰にでも使えるただの魔法だ。  懐の内ポケットに仕込んである魔法袋(マジックバッグ)に転送しただけの事である。 「彼女、素直じゃなくってね」 「はん、お前さんが鈍感なだけだ」  ウィルが鼻を鳴らしてグラスを傾けた。 「……今日も救われませんね」  俺は懐から煙草を取り出し、カウンターバーに置いてあるマッチで火を付けた。  その様子を見て、バーテンダーがグラスに新たに酒を注いでくれる。 「女神サマは、だらしねえのが嫌いなのさ」  ウィルが小さく肩を竦めた。  黒のパリッとした剣士服は体にフィットしていてスタイリッシュだし、肩に羽織ったライトベージュのボロコートもいっそ粋な印象を受ける。  一方の俺はと言えば――  灰色の神父服はくたびれているし、青い瞳はボサボサの前髪に隠れている、顎をしごくとうっすら無精ひげが指に触ったりする。  愛想笑いを浮かべすぎているせいで「口元がだらしない」などという評価を男女問わず賜る。  因みに金の髪に青の瞳は、リディア生まれならば割とメジャーな色合いだ。
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