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「面食いの女神様なんてこっちから願い下げだ。俺が見て欲しいのは――見てみたいのは中身だからな」
俺は煙草を咥えて「にへっ」と口元を緩めた。
「お前さんはがむしゃらに深入りしすぎっからなァ……そのうち誰かに刺されそう」
「護身術の鍛錬しとかなきゃ」
銀の都リディアにある大聖堂で僧侶として修行していた俺は、守れればそれで良いという教の精神のもと、専守防衛的な武術魔術を体得している。
もっとも大聖堂での修行はずるけていたし、生来魔法を苦手とする体質のため、まともに体得しているとは言い難い。
落ちこぼれの劣等感から身を持ち崩し、酒に煙草に女に博打――どれもこれもそこまで欲しているワケでもないが、今のところ破戒の限りを尽くしても、光の女神様から神罰が下る様子はない。
コインの彼女が微笑んでくれないぐらいだ。
『元騎士ウィル・フォードと、破戒僧のレヴィ・チャニングだな』
不意に名前を呼ばれ、俺とウィルは背後を振り返った。
俺の名はレヴィ・チャニングで間違いない。
いつの間にやらガラの良ろしくない男たちが、ズラリと雁首をそろえて俺達を取り囲んでいた。
バーテンがそそくさとバックヤードに避難する。
「おたくらは?」
俺は口元を緩ませて笑いかけつつ、さりげなくカウンターに向き直った。
身なりを見るかぎりその辺のゴロツキだ。
目を見張るような美人ならともかく、興味のない殿方は記憶容量の無駄になるので覚えるつもりがない。
『先週、うちの若いのが世話になったと聞いてな。挨拶に来た』
俺がリーダーですよと言わんばかりの、派手派手しい伊達な服装をした男が、不遜な態度でそう言った。
「グッドイブニーン」
ウィルが軽い調子の呪文言語(スペル)で挨拶をする。
『こんなケチな飲み屋じゃもの足りねえだろ。ウチの事務所まで足を運べ。上等な酒を用意してある』
「お気遣いには及びませんよ。どうしてもと言うのなら、金だけ置いて行ってくれ」
俺は背中越しに手の平を差し出した。
『てめえ――』
いきり立って飛び出した若いのを、
――ズドッ、
と、カウンターに座ったままの、ウィルの抜かずの剣が突き込んだ。
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