01.プロローグ

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『ぐッ……う……』  鳩尾に突きを食らった若いのが、悶絶しながら床に倒れ込む。  取り巻きがざわりと色めき立った。 「毎度どーも」  剣の柄を握るウィルの指に、布の財布が挟まっている。  倒れた男のものだろう。 「今月厳しいんだろ? とっとけ」  ウィルが放る財布を受け取って、俺はグラスを傾けた。 「お前って、剣士と言うより盗賊だよな」 「剣士だ騎士だ? ノンノンノン。盗賊ってえのもちょいハズレ」 「うん?」 「トレジャーハンター、俺を呼ぶならそう呼んでくれ」  ちっちっち、とウィルが柄を握る手の人差し指を振って見せた。 「盗賊との違いは?」 「俺が欲しいなァお宝じゃねえ。いつだってロマンとスリルなのさ」  小さな八重歯がチラリと覗く、悪戯少年のような顔だった。 「俺は間違いなく破戒僧だしな……名乗るならなんだろ?」 「遊び人じゃねえの?」 「いつか賢者になれたらいいな」 「そいつァ極上の方便だ」  お互いにグラスを掲げ合って酒を煽る。 『野郎――』  と、今度はウィルの背後に男が襲いかかった。  ――ビスッ  と、一枚の銀のコインが男の額で弾け飛び、バーの隅に転がる。  俺が親指で弾いたものだ。 「聖コインつぶて――なーんちゃってな」  これは聖ライアリス教の僧侶が用いる祓魔術の一つで、銀製のコインを指と魔力で撃ち出す技だ。  相手が街のゴロツキ程度なら、僅かな魔力で目眩ぐらい引き起こせる。 『お、ふ……ッ』  額を撃ち抜かれた男は、そのままばったりと床に倒れ込んだ。  いつの間に抜き取ったのか、ウィルの手にはまたしても財布が握られている。 『タダで済むと思うなよ、てめえら』  いばりくさった伊達男が、首の骨を鳴らしながらいきり立った。 「おほー? いくら奢ってくれるつもりなんざんしょ」  ウィルがおどける。 「教の僧侶に見習らわせたいご奉仕精神だな」  俺も小首を傾げて返した。  店内にひしめき合う男共が身構え、ジリジリと俺たちを取り囲む中、  ――バァンッ!  バーの扉が乱雑に開いた。 「ウィルくん! レヴィさん!」  緊迫した店内に、幼い少女の声が響いた。
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