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『鬼人(オーガ)!? お、オーガだ!』
『冗談だろオイ!?』
ゴロツキの若い衆らが蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出した。
入口はオーガの馬鹿にデカい体で塞がれているため、全員がカウンターを乗り越えて裏口のあるバックヤードに駆け込み出す。
『ゴォォォォッ!』
人の三倍の体格はあろう魔物が、店の入口に取り付いて唸り声を上げた。
オーガは顔面に角の生えた二足歩行の魔物で、性情は極めて凶暴。目に映った気に入らないものを破壊衝動に任せて殴り飛ばすという、実に単純明快な思考の持ち主である。
――メリ、メリメリメリ……
オーガの豪腕による圧力で、バーの壁に大きくヒビが走った。
「御店主、これ、拙僧からの心付け」
俺もウィルにならって手に入れたばかりの財布を献上することにする。
「そんなワケだから、よろしくね」
アヤが「にぱっ」と笑顔を浮かべた。
「オーガの一匹や二匹てめえでなんとかしろっつーの。お前さん、曲がりなりにも冒険者だろ」
ウィルがため息混じりにカウンターから腰を上げる。
「いやぁ、実は――」
アヤは言いづらそうに俺たちから目を逸した。
『グガァァァァ!!』
『オォォォォォォ!!』
店の周りから次々に咆哮が上がった。
「壊滅したパーティがあるって言うから様子を見に行ったワケよ。そしたらその場で立ってるのがアタシしかいなくってさあ、七~八匹たむろしてたオーガが全部追っかけて来ちゃったの。あ、店のドア壊した一匹は、ここに来る途中にばったり行き当たった別のヤツなんだけど」
「……なぜにそういう、すぐバレる嘘をつくものかな」
俺は重い腰を持ち上げて、ボサボサの頭を鬱陶しげに掻いた。
「別に嘘は言ってないでしょ? 魔物が来るってアタシ言ったもん。一匹だけ近いところを付いて来たから真っ先に報告しただけよ」
アヤが子供のように唇を尖らせて見せる。
齢十九にしてこういった少女の素振りを平気でする娘というのは、大体が甘ったれの夢見るアリスちゃんであり、自分の容姿が幼いことを自覚して武器にする腹黒さを併せ持っている。
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