偉大なる考古学者の死

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「突然だったな」 雨の気配を感じさせる中で、喪服を着た年輩の男が焼却炉を見つめ、ぽつりと呟いた。その隣に居た壮年の男は上司の呟きを聞いているのか聞いていないのか、ただただ自分の父親が煙となって空に消えていく様をじっと見つめていた。 「ずっと音信不通だったんだろう。気の毒としか言いようが無いよ」 「気遣いは無用です。元々、円満と言える関係ではなかった」 「だかなあ、瀧島ァ」 瀧島と呼ばれた男は煙草を取り出し口に咥え火を点けた。そしてふうっと一息つき話しだした。 「父は俗に言うロクデナシで、家庭を顧みたことは無かったんです。いつも大学の講義に熱を入れて、発掘発掘と言っては海外を飛び回っていた。考古学者としての父以外を見たことが無い。親父が何でお袋と結婚出来たのかも不思議なくらいだ」 「そりゃあまたァ、、。奔放な御人だったんだなァ」 年輩の上司である北野も口寂しくなったのか煙草を取りだした。瀧島は慣れた様子で北野の煙草に火を点けた。北野は再び黙って焼却炉を見つめだした瀧島を横目で見たが、北野もまた何も言わず焼却炉を見つめた。 暫くの沈黙の後、会話を切り出したのは北野だった。 「お前さん、これからどうすんだ?まさか父親に死なれたショックで山に籠るとか言わんでくれよ。公安にはお前は必要だ」 「そんなことで辞めませんよ。ただ、暫く休みを頂けませんか」 「休み?そりゃあ構わんが。珍しいな。いつもは有休をさっさと消化しろと急かされるお前が」 瀧島は上司の了承を得ると会釈をして、今度は一度も父親が煙となっていく様を見ず、背中を向けその場を立ち去った。 一人残された北野は頬にぴちょんと水が当たったことに気が付いた。 「ああ、降り出したな」
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