漆黒の蝶

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 「 橋本 とも 」 もう一度呼ばれる。 今度は、すぐ右のほうから呼ばれた気がして。 声のするほうを向く。 「あの・・。私が、橋本ともです」 試しに返事をしてみた。 そもそも声の主もわからない。 でも、なんだか返事をしないとずっと大きな声で呼ばれる気がして。 「お前は、なぜ死んだ」 返事をしたからか、今度は質問が飛んできた。 でもまだ、声の主を探せないでいる。 なんとなく声が聞こえた気がする方向に顔を向ける。 「あの~、なぜって言われても。死んだ理由ですか?それともどうやって死んだかですか?」 質問には的確に答えたい性分だ。 質問に、質問で返してしまった。 「死を選んだのは、なぜだ」 心なしか、さっきより声が近くなっている気がする。 なぜ死を選んだか・・。 死を選んだというより、生きることをやめたというほうがしっくりくる。 「生きていたくなかったから。これ以上生きていても、もう私にはなにも残っていないから・・」 改めて言葉にしてみると、忘れていた感情がよみがえる。 さっきまでの恐怖感はない。 今は、死ぬ瞬間まで抱いていた感情でいっぱいだ。
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