漆黒の蝶

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「 橋本 とも 」 真っ白な世界の、真っ白な空間から突然怒号のように響いた声。 あまりにも突然で、それが自分の名前を呼ばれているのだと気づくまでに少し時間を要した。 死んでいるからなのか、こんなに目玉が飛び出るほどびっくりしたのに、心臓がバクバクする感覚がない。 そうか、死んでるんだから心臓止まってるのか。 なんとなく可笑しくて、くすっと笑った。 そして、その次の瞬間にまた恐怖感だけが襲う。 今、自分の名前を呼んだ主が見えない。 マイクを最大にして叫んだような、そしてその声の主が男なのか女なのか。 さっぱりわからない。 ただ、名前を呼ばれたことだけが理解できる唯一のこと。 真っ白な世界をもう一度見渡す。 やはり、何も見えない。 何も見えないのに、確実に何かいるという感覚。 怖くなって、目を閉じた。 さっきまで真っ白な世界だったのが、真っ黒に変わった。 そう、ただ色が変わっただけでしかない。 白と黒。 なんとなく、自分の体だけでも見える白のほうが落ち着く気がして。 うっすらと目を開けた。 やはり、なにもいない。 そんなとき、ふと濃紺のワンピースの裾に真っ白な蝶が飛んでいたように見える。 ただ、裾から離れるとまわりはすべて真っ白な世界。 真っ白な蝶を探すのは容易ではない。
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