プロローグ 白き聖女と黒き従者

2/3
前へ
/118ページ
次へ
昔、あるところに一人の美しい娘がいました。 彼女の住む村は、国の中でも深い山の奥にある辺境でした。 貧しい生活の中でも娘は大自然に囲まれながら美しい心をもって育ちました。 いつしか、娘は周辺の村でもそれはそれは美しい娘として評判となりました。 しかし、そんな娘には不思議な力がありました。 それは、傷を癒やしてしまう力でした。 心優しい、娘は自らの力を使い、様々な人たちを癒やしていきました。 娘の噂は村だけでなく、その地域を そして、国中へ広がっていきました。 そのうち、そんな辺境の村まで彼女の力を頼りに人が訪ねるようになっていきました。 そんな人を、優しい優しい娘は放っておけることが出来ませんでした。 彼女は身を粉にして、人々のために力を使いました。 人から人へ、話は伝わっていき、貧しかった村は彼女のおかげで徐々に大きくなっていきました。 そんなとき、彼女はある出会いをしました。 彼女は休む暇がほとんどありませんでした。 人がいるところへ行けば人だかりが出来る。 彼女が休まる場所はどんどんなくなっていたのです。 だから、彼女は隙を見て森へ一人で出かけることがあったのです。 そんな彼女にとってのささやかな癒やしの時間。 それは目の前に突如現れました。 それは各地を荒らしていると噂の人食いの魔物でした。 そんなことは知らない彼女はその生まれて始めて見る魔物へ恐る恐る近づきました。 なぜなら、その魔物は怪我をしていたからです。 それも軽い怪我ではありませんでした。 全身に鏃が刺さり、息も絶え絶えという感じで横たえていたのです。 意識が朦朧としていた魔物は彼女を一度は払いました。 それでもその命が消えかけているのが分かった彼女は放っておくことが出来ませんでした。 決死の覚悟で魔物へ近づき、そしてその傷を全て癒やしました。 動けるようになった魔物は、憎き人間の娘を見て一度は食べようとしました。 しかし、その命をつなぎ止めることが出来た彼女の表情はとても晴れやかで美しいものでした。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加