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高らかに響く蹄の音と、悲鳴を上げる車体音が静かなはずの森をけたたましくさせる。
白く濃い霧が立ちこめて周囲の雰囲気をずいぶんと陰惨なものへ変えていた。
岩場が目立つ谷間、しかもあまり人の通りがないのか石造りの道があるにはあるのだが、すでにガタガタになっていて馬車が通るには不向きな状態になっていた。そこを猛スピードで駆け抜けていかなければならないので、車体にかかる負担は相当なものだ。
しかも、この馬車はもらい物。
好意によって譲っていただいた品物だ。それを手荒に扱うのは気が引ける。
特に、そういったことを昔は気にしなかったが、今の彼女は気にするようになってしまった。
「レーン! まだ来るの?」
珍しく声を張り上げて彼女は叫ぶ。
そうしないと、荷台後部にいる彼まで声が届かないのだ。
彼女自身、ここまで自分が大きな声を出せるなんて思っていなかった。
「まだです! 二匹は諦めたみたいです!」
彼の叫びがかろうじて聞こえる。
二匹ということは、残るは一匹のみ。
彼女は、必死に慣れない手綱を握りしめ、必死に走る馬をコントロールする。
最近になって、念話とまではいかないが想いを伝える術が出来上がりつつあった。
特に動物にこれが有効らしく、最近は馬相手に色々と遊んでいた。
しかし、同時に複数の相手とはまだそれが出来ない。
なので、暴れ気狂いそうな馬を必死になだめ、コントロールするのに彼女は神経を使っていた。
「そう、そういい子だから、がんばって」
さらに濃くなってきてしまった霧すらも、馬からしたら恐怖以外のなにものでもない。
地形は、彼女が先に察知できる。
それを馬へ伝えながら必死に手綱を握る。
険しい山頂を越え、ようやく下りとなったとき彼らはやってきた。
三匹の小鬼のような魔物だった。
形は小さいが、それでも魔物。人間からしたら、ひとたまりもない。
問答無用で襲ってきたところを見ると肉食らしい。馬も狙うところをみると、無差別に感じられた。
山脈のこと自体はあまりリサーチをしていなかったため、あまり魔物の情報を得ることが出来ていなかった。
とはいえ、グループで出てくる魔物というのも少し珍しい。
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