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一章
腕を組み髭を蓄えた男の目の前に一本の矢が紙の上に大事そうに置かれている。
その矢を険しい表情で睨みつけたまま一言も発しようとしない。
それを見かね傍らにいた初老の男が促すように言う。
「晴静(はるつぐ)様、如何致しましょうか?」
「……」
だが組んでいた腕を解いて右手で額と目を覆い深い溜息を吐くだけで
何も言おうとはしなかった。言葉が出ないのである。
「あのっ…」
「…聴こえておる。どうしたものかと思案しておるのじゃが、それよりも此度の件について怪我人の報告は?」
「当方には今のところございませぬ。そもそも、晴定(はるさだ)様の方に向けて放たれたらしく、その先には敵兵がおりましたゆえ何処を狙っていたのかまでは些か…」
「今は伏せよ。その言葉、口にしてはならぬ」
「は、も、申し訳ございません」
初老の男が慌てた様子で口を塞ぎ、辺りを見渡した。
「然し、よりによって目出度い晴祥(はるあき)の初陣の時に斯様な事が起きようとは…。して、二人には?」
「恐らく晴定様も晴祥様もご存知かと…」
「厄介な事じゃ。今、表沙汰には出来ぬ。特に外に知られては付け入る隙を与えるようなもの。漸く持ち直した当家を再び危機に陥れるわけには行かぬ。これはわしが預かろう。よいな、くれぐれもこの事は他言無用であるぞ」
「はい、畏まりました」
「兄上に何もなくて安堵した。戦の最中ではあったが、一時でも冷静さを 掻いてしまったのは恥じるべきところだが…」
「冷静さを失う方が普通ではございますが」
「戦の最中でそれでは判断を失う。判断を失えば多くの者の命を失うことにもなる。そう、教えられていたが、まだまだ充分に解ってはおらなかったようだ」
「晴祥様はまだ初陣。追々、場を踏んで行けば大丈夫であろうかと」
「すまない。然し此度の件だけは…」
そう言い掛けて晴祥は言葉に詰った。
「それは、あの…晴定様狙撃の件」
「口にしてはならぬ!…あ、いや、大声を出してすまん。恐らく兄上の事だ、ご存知であられよう。そして、調べもしておろう。当家は一枚岩となり揉め事など起こしては…」
「ですがお言葉を返すようで申し訳のう存じるのですが、あの晴定様の日頃のご様子ではこうして晴祥様が苦心し、身のご無事を申し上げても聞き届いてはいらっしゃられないのでは…」
用人に言われ、肯定する言葉が喉から
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