二章

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少し老けた感じと思しき男が一人、晴静の私室に入る。 「晴静様。葛葉から書状が届いております」 「葛葉から?…ふむ」 「此方でございます」 スッと晴静の目の前に紙切れが差し出される。 それをじっと見て直ぐに書状を差し出した者に視線を移す。 壮年を迎えて数年過ぎた頃だろうか老けた感じを思わせる容貌だが表情は落ち着きを見せていた。 「信満(のぶみつ)」 「は…」 晴静の声に気付いたのか徐に立ち上がり、開いていた障子を音もなく閉めた。信満と思われる者が再び戻ってくると事態を把握した晴静の声が飛んできた。 「そなたはこの書状読んだのか?」 「はい。読みました。…何ともお恥かしい限りでございます、倅が葛葉のみならず晴静(はるつぐ)様や晴祥に迷惑を掛けてしまったと思うと更に申し訳なく…」 「起きた事は致し方がなかろう」 「恐らく晴祥を外に連れ出したのは倅でしょう。帰宅次第、叱責せねばなりませぬ」 先程の落ち着き払っていた表情とはうって変わり、申し訳無さそうに溜息を吐きながら、眉間を寄せ険しい顔つきを見せている。 「まぁ、そう云うな。信猛とて斯様な事態になるとは予期しておらなんだろうに」 「父上は甘すぎるのですっ!若い者は兎角無茶をしすぎる、言わねば解らぬ事もございます!」 「そなたの若き頃も余り変わらなんだ気がするが…」 「え、あ…いえ、その、し、失礼致しました。言葉が過ぎまして申し訳ありませぬ」 「よい。今は、わしとお前しかおらぬ。若いのは多少無茶するぐらいでないと将は務まらぬ。さて、気に掛かるな。この得体の知れぬ野武士達とやらが」 「えぇ。葛葉がある程度事情を掴んでいるとは思います。私めが行って詳細と倅どもの様子を見て参ります」 「そうじゃな。此度はある意味葛葉が受け皿になって良かったのかもしれん」 「左様でございますな」 「近いうちに評定を開く、主だった重臣と領内の一門衆全てに声を掛けよ。臨時の評定ゆえ、のちに名簿を渡すがそれ以外に声を掛けるな。そして…他言無用ぞ」 最後の言葉を聞き、その評定がどの意味を持つのか明確に解った瞬間でもあった。 「畏まりました。お任せください」 「くれぐれも気をつけよ」
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