一章

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出かかったがそれを飲み込む。 「…まぁ、そう言うな。恐らく兄上も」 とは言ったものの、フッと脳裡を 過ぎる兄・晴定の顔と言葉。 「お前が弟でなければ追放してやったものを。今、ここに無事で居られる事をありがたく思え」 「兄上、そのような事を何故…」 「理由が欲しいのか?簡単な事よ、日頃からお前は何処か気の緩みとまだ一人前になって間もない甘さがあるからな。お前のような未熟者に晴静様がどれほど庇っておいでか…」 「甘さ、ですか…」 そう言い掛けた刹那、晴定の眼差しが更に厳しいものになり、喉許に短刀を押し当てられずいっと顔を寄せたかと思うと睨まれた。 「追放と死罪、どちらがよい?」 「えっ…!?」 「甘い考えなど棄てろ。父上のように死にたいのか?まぁ、尤もお前は家督を継がぬ身ゆえ、そのような考えで済んでいるのであろうがな。どのみち今のお前には答えは見つからぬ。精々、葛城家の恥にならぬよう武術に軍学に励む事だ。ゆくゆくは我が手足となるよう胆に深く銘じておけ。お前の行動一つで晴静様やわしに迷惑が掛かるものと思え。そう、くれぐれも晴静様の顔に泥を塗るような真似だけはするな。そのような事をしたら、この手で始末する。いいな?」 「あ…」 反論する間も無く晴定は言うだけ言い その場を去っていった。 後に残された晴祥は何ともやるせない 気持ちが押し寄せてくる。 兄と言えど全く隙が微塵も見られない。 側室を持つのが昨今の主流な中、奇しくも二人は父母とも同じ兄弟であり、それゆえの甘さが晴祥にはあるのだと晴定は言う。 それは確かにその通りかもしれないと晴祥は思っていた。二人の実父は既にこの世には居ない。二人が生を受けて間も無く、命を落としていた。 戦に出る前から戦向きではないと言われ続けて育ち、それを少しでも払拭しようとし、葛城家を安定させる為に晴静と重臣たちが焦った結果だった。 完全に見誤ったと感じたのは合戦開始直後であり、救援を出すも間に合わず潰滅。 本陣帰還途中で家臣の裏切りに遭い殺されてしまった。そんな事実が二人の前に横たわっている。 だからこそ、甘いと言われ嫌われているのだと晴祥は感じていた。実兄である晴定に嫌われていると思いたくはない。 そんな心の一面もある。確かに嫌われている、そう思ってしまえば心は楽なのであろうが。
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