一章

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各国衆とも個別に大名家と約定を結んでいる場合だってある、一概に戦に参加出来ないからと言って非難は出来なかった。 ここまでくれば明らかな嫌味である。後から国衆として参加した隼湍衆にとって古くから領内にいる葛葉衆は目障りな存在。 当主、一門、重臣らは皆、その事は把握しているがゆえに敢えて同時に取り扱わないようにもしていたが、 何かと隼湍衆の方から絡んでくる。当然、もれなく晴祥も信猛もこの隼湍衆が嫌いである。 そんな彼らから見ても明らかに判る事がある、『隼湍衆は葛葉衆を嫌っている』…それは、誰の目からも感じとれていた事柄であった。 「で、何の用だ?わざわざ晴祥に嫌味を言わせるが為の用か?」 信猛に「さっさと帰れ」と、言わんばかりに促され、隼湍衆の頭である藤園はその空気を一蹴。 「我らと晴祥殿とは切っても切れぬ間柄。晴祥殿とてお気持ちは同じでありましょうに」 「何処をとって同じと!」 「信猛っ」 「止めるな、晴祥」 「いいから待て。ここで争っても得策ではない」 どうするのかと晴祥の様子を涼しい顔で眺めている藤園。 そんな藤園の顔を苦々しい顔で見返す信猛。 だが晴祥本人は…。 「確かに、相次ぐ葛葉衆の合戦不参加は見過ごす事は出来ぬ。だが、当主である晴静様と葛葉衆の間でその事に関して何らかの約定を交わしていた場合、現時点では葛葉に異議は申し立てられぬ」 「約定…例えば?」 藤園に向けていた視線をくるりと晴祥の方に顔ごと向ける。 「そうよな…わしが聞いてるのは、我らが日々に使う薬や合戦でよく使われる膏薬はそれらは皆、葛葉が独自に作ったり、交易で仕入れたりした物であるとされている」 「なるほど、だから効きが早いのがあるのか」 「そういうこともある」 「…左様でござるか。ま、いつかは戦にも出てきてもらわねば此方とて身が持ちませんからな。では、失礼」 それだけ言うと先程、あれだけ得意気に話をしていた藤園は形勢不利と見るや否や、さっさと踵を返して引き揚げてしまった。 「やっと、追い払えたか。毎回梃子摺る相手よな。戦莫迦には論戦に持ち込む方がいい」 肩の荷が下りたかと言わんばかりの表情で晴祥は溜息を吐く。 「毎回その手が使えるとは限らんぞ」 「あぁ、解っている。だが、有効なれば使わぬ手はない」 「ときに晴祥。思い出したが、ちと確認したい事がある」 「何だ?隼湍の事か?それならば、言わずとも…」
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