二章

1/7
前へ
/12ページ
次へ

二章

揺れる灯りの向こうに怒りにも似た顔が二つ、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がっている。 「えぇい、このままでは葛葉に台頭を許してしまう事になるッ!戦を好まぬ者達の台頭を許せば、我らの活躍の場がなくなってしまう」 「然し、斯くも彼奴めが腰を上げぬとは思いませなんだな。晴定の実弟であり、勇猛なご当主晴静殿の曾孫ゆえにもう少し勇ましいかと思ったのですが、どなたに似たのか…。事を急がねば、葛城家の跡目が決まってしまいますな」 「だが、あまり手荒な真似をして我らの事が明るみに出ては元も子もない」 「悠長な事を言ってる暇はないですぞ。こうなれば、無理にでも腰を上げさせるしかありますまい。我らと判らなければよいのでしたら良き手ごろな者たちがおります。例の狙撃の件で武功を挙げ損ねた狗の気勢が今…、昇らんとしておりますから。彼らなら恐らく手筈以上の手柄を持参することでしょう。いや、いっそうの事、我らと解らせてやれば宜しいのでは?」 「何を言って…」 「我らの意図を解らぬ凡愚でもありますまい。我ら、隼湍を敵に回すと如何なる事になるか…その身で知らしめてやりましょう」 藤園の眉間に皺を寄せ怪訝な表情をして、目の前にいる腹心である周防の顔を見る。 その視線に気づいた周防も藤園の顔を見返した。 「……何か?」 「い、いや…」 と、答えたものの内心藤園は周防の事を恐ろしい男だなと再認識せざるを得なかった。 「兎も角。この件は、当方にお任せを。必ず近いうちにお知らせできるかと思います」 「あ、あぁ」 それ以降、藤園は言葉を一言も発しようとはしなかった。 藤園と周防との密談から何事もなく数日が過ぎ、とある雨上がりの晴れた昼頃、信猛は晴祥を屋敷から連れ出し、郊外の方へと歩いていた。 「いやー、よく晴れたな。結構雨が降っておったのにのぅ」 「何でまた斯様な日に。まだ午後の庶務が…」 「気にするな、庶務くらい。所詮、庶務だ、庶務。若いお前がする事もない。こんな晴れた日は外に出るに限る」 こういうふうに言い出したら信猛は耳を貸さない。 かなり城下から離れてしまい、今戻ったとしても大して仕事など進まないだろうと思い直し『仕方ないな~』と、頭を掻きながら信猛の後ろをついてゆき、歩を進ませる。 時折頬を撫でる風が涼しくて心地いい、たまに外に出るのも悪くない。 「どうじゃ?風が気持ち良かろう?」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加