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「晴祥、逃げよッ!!」
晴祥が集団の脇を通り抜けた正にその瞬間、中ほどにいた背の高い男がゆっくり動いたかと思うと手が俄かに動き鞘から刀身が放れ、信猛の背目掛け抜き打ちをかけた。
その振り上げられた抜き打ちを躱わし、くるりと振り返りると考えるより先に鞘走った。
「やはり、我らか…何が目的だ!?」
「……」
「言わぬ気か、それとも答える気がないのか?」
「……」
信猛の危機感は的中していた。
目的は解らないが、明らか男達は自分や晴祥を狙っている。
そう感じ取った信猛は、背の高い男を間合いを取ろうと押し戻すように膂力を仕掛けた。
弾かれた背の高い男は僅かに動揺していたが、すぐに持ち直す。
すると周囲の男達も次々に抜き身になり、信猛に襲い掛かる。
傍らで見ていた晴祥だが、刀を抜き信猛の背に回り込んだ。
「なっ、なぜ逃げなかった?あれほど逃げよと…」
「背中ががら空だぞ。それにこの人数、信猛一人で切り抜けるのは…」
「仕方ない、話は後だ!一気に片付けるぞっ!」
「あぁ!」
実戦経験の少ない晴祥はまだ一対一で向き合うぐらいしか余裕がない。
いや、寧ろその余裕すらない程に緊張していた。
そのため、何処となく腰が引け気味だったが若さという勢いだけで立ち向かい、そして経験の浅さを隠そうとした。
そのことを知っていた信猛は晴祥に無理はさせまいと、敢えて自らの身で深入りさせないように盾となりながらも鮮やかな刀捌きを見せる。
一人、また一人と当て身を食らわせて倒していく信猛に晴祥は逃がしてくれたのに戻ってきたのを少し後悔していた。
「これで最後だっ!」
信猛の刀の背が一人残った野武士の胴、そして背中に一撃ずつ加え、その場に崩れさせた。
「…すまん」
「何だ、どうした?藪から棒に」
「いや、信猛がわざわざ逃がしてくれたのに戻ってきた事を」
「あぁ、それか。確かに、そのまま逃げてくれれば良いとは思ってはいたが、まさか実戦経験の少ないお前が戻ってくるとはな。正直吃驚したわ。…だが、嬉しかった」
「でも、見ている方が良かったのかもしれないな。これでは…」
刀背打ちでやられて地面に転がる野武士たちの姿を見て、改めて自分の浅はかぶりを恥じる晴祥。
「実戦経験を積めばお前もすぐ慣れる」
「そうだろうか」
「今は気にするな。肝に銘じておけばそれでいい。さ、行こう。日が暮れてしまう」
「あ、あぁ…」
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