二章

4/7
前へ
/12ページ
次へ
歩を進ませようとしたそんな矢先、物陰にもう一人隠れているのが晴祥の両目が捉える。 どうやら信猛はその物陰の存在に気付いてはいない。 微かだが刀が抜かれる音が聞こえたような気がして、激しく土を蹴る音が耳にも届き、晴祥は声を上げ信猛の背に再び回りこんだ。 「危ないっ!」 「ぬッ!?」 潜んでいた野武士の刀身が先か晴祥が回り込むのが先かは解らなかったが、 信猛が振り返った直後には、晴祥は背に凭れているようなかたちで自らの意思で身体を保たせる状態ではなかった。 少し動けば信猛の脇からその身がずり落ちてしまいそうである。 「くっ…」 「は、晴祥!?」 自分が受けたであろう野武士の刀身は晴祥の左腕に深く刺し込まれている…と思ったと同時にそれは引き抜かれた。 「う…っ…」 「晴祥っ」 「…は、…っ、こ、これ…くらい…っ」 内心信猛は『しまった!』と、油断してしまった事を後悔した。 いくら他の野武士たちを倒したとはいえ、所詮刀背打ちである。 下手をすれば彼らに反撃の瞬間を許してしまう事にも繋がり、また物陰に隠れていたなどとは露も知らず、足早に去らなかったのは落ち度であると。 晴祥をどうにか立たせて、一旦ここから退いた方がいいとは思ったものの、抜かれた箇所から血が溢れ出て、晴祥は左腕を強く押さえたまま立つ事もままならない様子だった。 「厳しい状況だな…」 そう呟き、晴祥を左腕に抱え、再び信猛が柄に右手を添えた。 その直後の事であった。突如として馬の嘶きが辺りに響き渡り、その足が大地を蹴る音がして複数の馬が此方へと向かってくる。 その中央には馬上にて何かを構える仕草をする者が一人。 信猛にはそれが直ぐに弓であると遠目からでも確認する事ができた。 相手方の増援かと思い込み、『いよいよ追い込まれた。』と、そう思った。 「せめて、晴祥…お前だけでも」 「…信猛…殿?」 小さく晴祥が呟いたとき、引き絞られた弦が啼く。 「どなたです!?我が葛葉領内で争い事を起こしているのは!これ以上騒ぎを大きくすると今度は我が刃を以って贖ってもらいますよ」 先程は何処にもいなかった筈の女の声が二人の耳に届いた。 そういえば…と、思い出したかのように、痛さも感じず、誰の悲鳴すら聞こえない事に疑問を感じて信猛が顔を上げてみると、そこには放たれた筈の矢が野武士と自分たちの間の地面に刺さっている。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加