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ナツメは無言でスマートフォンを凪人に返した。
コメントのやりとりは、2か月ほど前のものだ。
なぜ、謙介はこんなに他の人間に話していたのだろう。
『家のなかじゃ、本音なんか言えないんだ。リアルの俺は俺じゃない。笑う? 気持ち悪い? 俺はネットのなかでやっと自由になれる。リアルは……ナッちゃんとの時間以外は偽物なんだ』
ふと、かつて謙介が電話で言ったことを思い出した。
謙介は、自分と話をするだけでは満足できなかったのだろうか。
ナツメと凪人は、法然院から最寄りのバス停で降りた。
少し東に歩いて行き、哲学の道へ出た。春ならば桃色に、秋ならば赤く染まる道が、今は緑に包まれている。伸びた枝葉が川面に映り、水の色も緑に変えている。
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