第1章   逃亡者たち

4/81
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
『邪聖カーミラ公』 グラスを二杯飲み干し、三杯目を飲み始めたところで町長が呟きだした。 『900年と少し前、そう、第二の黙示録の日、彼はこの町に現れた。そう、それは夜に青い地平線が広がるや眼に焼き付く火の光が現れるように―――それはまるで天が降りてくるような感じだったらしい、それから町は滅びの道を歩むことになる。当然じゃのう、あの日まではまだ世界は繋がってなかったのだから危機感というものが当時の人間にはなかったのだろう。美しい彼は滅亡の指導者であった。人間の生気を糧としている彼は次々に町人を惨殺し、まがい物の信者を作り出していた。自分達が死人になっているとは気が付かず、百年もの間、カーミラの支配は続いた。辺境、更にこの土地は人類の領土からは離れた孤島である。故に都に伝令が辿り着いたとき既に町は死町と化していた。当然よのう、本来なら人類などもうこの世にいないであろうからな。都よりよこされたハンターは強かった。只の二人で化け物と化した町人を地に伏せ、そして自らの命と引き換えに、カーミラ公の栄華は終わりを告げたという―――しかしそれでも彼の欲望は収まることはなく今なお妖気漂う城近くに近寄るものはいない―――先日町の者が神隠しに合うと同時に城から出る馬車の姿を見た者がいる。恐らく彼を収めた棺を乗せて、彼を復活させる為に、何者かが、君には何としても馬車を止めてほしい。彼が再び目覚めるようなことがあれば―――』  町長は言葉を喉に詰まらせた。 『今回に至っては都から賞金がでる、百万デリス、辺境すぎるこの地では先遣隊が間に合わないとのことだ。傭兵、亜人、何を使ってもいい、彼を復活させてはならん』  言い終わると同時に町長はグラスを机に置いた。自分の焦りの顔を見せぬ為か、興奮の色か、本棚に向いた町長が机に置いたグラスの水面が揺れている。 『招致した』 鉄の声がした。町長がおお―と身を反した時、男は元来た闇の中へと消えていった。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!