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返事もできないオレに構わず、葛谷はまくし立てる。
机上の雑貨を慣れた手つきで整理して、葛谷は席を立った。
「はー、帰ろ帰ろ。
あー、三次元の嫁ほしーなー」
葛谷はブツブツ言いながら、オレの返事も待たずにオフィスを出て行く。
葛谷が後ろ手に閉めたドアを、オレはしばらく呆然と眺めていた。
なんだ、それ…?
オレはそれほどに他人に無関心だったのか…?
真紀だけじゃない、付き合いの長い葛谷にまでそう言われるなんて。
いや…葛谷だけじゃない。
隆弘にだって、そう言われていた。
社員のことも、真紀のことも、美緒のことも…?
オレは誰のことをも、まともに見つめてなんかいなかったのか…?
一人取り残されたオフィスを見回し、オレはゆっくりと瞬いた。
慣れ親しんだこの場所が、奇妙なほどによそよそしく感じられていた。
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