第1章

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「どうしてだろうなー。んー、よく分からないや」 軽い口調のわりに、真剣な眼差しで返してきた彼女に、ただ、そうか。 とだけ思った。 私が浮気を理解出来ないのと一緒で、彼女も分からない。と言ったことで、少し共感を持てた。 なのに。 「浮気されても、戻ってきてくれればいいや。と思うんだよね」 耳に、髪をかける仕草も、やっぱり美しくて、見とれていたが、綺麗な弧を描く唇が出した答えは、理解出来ない。 理解する必要はないのだけれど、知りたいと思った。 「・・・」 「何で、そう思うんだろうねぇ、良くないことって分かっているんだけれど、分からないや」 そう言って笑った顔には、少し自嘲が混じっていた。 「私は、浮気をする人を許せません。私だったら、別れます」 この時、脳裏を掠めたのは、何年も会っていない父の顔だった。 「そうね。前まで、私も、正しくそう思ってた。やっぱり、相葉とは、いい友達になれたと思う」 「・・・」 「どうして、こんなに好きになったのか、分からないけれど、今は、彼しかいないと思えるの。おかしな話よね。自分でも不思議に思うわ」 真っ黒なカウンターバーに真っ白い腕が乗り、お行儀悪く肘をついて、その上に顔を乗せた高井さん。 横顔も綺麗、正面も綺麗、長いまつげが瞳に影を作る様も綺麗。 光が薄暗い中、上手く当たるせいで、ザクロ色のルージュが妖艶な艶をもって真っ赤に映える。 その雰囲気すらも、彼女の独特な雰囲気を引き立てていて、いいなと思う。 こんな、赤いルージュが似合う人、他にはいない・・・。 まるで絵画から、抜け出てきたような人だ。
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